アニマル泉

アイアン・ホースのアニマル泉のレビュー・感想・評価

アイアン・ホース(1924年製作の映画)
5.0
フォードの出世作。サイレント映画で2時間30分の大作。サウンド版で上映。
冒頭、無名時代のリンカーン(チャールズ・エドワード・ブル)とデイブ少年(ウィンストン・ミラー)とミリアム少女の雪の別れの場面、少女と少女のアップや見た目の背中のショットが的確で美しい。父親が殺される場面、隠れたデイブ少年の前には斧が突き刺さっている、コマンチ族を装っているデロー(フレッド・コーラー)のアップ、再び斧と少年のアップでデローの特徴的な二本指がインして斧を抜いて少年の顔が恐怖で引き攣る、見事なショットだ。

フォードは乗り物や馬を撮る天才である。出世作で大陸横断鉄道を描いたのは幸せだった。シャイアン族の列車襲撃の場面、馬で走りながらライフルを撃つシャイアン族のフォローショットが素晴らしい。シャイアン族は列車を「アイアン・ホース」と呼ぶ。縄で止めようとして機関士は馬鹿にして突破するが、線路に不審物が置かれているので急停止、確かめに線路に降りると矢が刺さる。次々と貨物や客車に矢が放たれて一気にシャイアン族が襲撃する。このリズムが見事だ。列車、馬に加えてバッファローや牛のビッグトレイルも圧巻だ。クライマックスはシャイアン族が列車を襲撃して周りを馬でグルグル回りながら発砲する、デービー(ジョージ・オブライエン)が機関車をなんとバックさせて爆走して街に応援を頼みに戻る。折りしも牛のビッグトレイルが到着する。シャイアン族との戦闘応援に渋る工夫たち、すると渋る男たちを牛の大群が機関車に押し込んでしまう。この群衆と牛の大群の混乱は凄まじい。フォードしか撮れない。
援軍を乗せた機関車が戻ってくるロングショットが素晴らしい。取り残された車両の周りをグルグル走り回るシャイアン族の馬の土ぼこりとライフルの煙と機関車からもうもうと上がる黒煙、煙だらけの壮絶なロングショットだ。本作は「煙」の映画である。機関車が戻ってくるカットは線路の下からのローアングルで機関車はカメラの真上を通過する。ここでシャイアン族は一度引いて、体勢を整えて、横並びになって一気に機関車めがけて突進する。それを迎え撃つ列車の人々ごしに土ぼこりを上げてシャイアン族が迫るロングショットが決定的だ。一方でデービーとデローが宿敵の戦いになる。何故か銃は捨てて裸になっての殴りあいだ、ここでシャイアン族と敵対するポーニー族の応援が馬で続々と来る。デービーとデローの殴りあい、ポーニー族の馬の疾走がグリフィス風に並行モンタージュされる。デローが斧に手をのばすがその指は二本指!父親殺害を思い出させるアップ、デービーはデローこそ父の仇と気づく、カットバックでポーニー族の馬が地面の真下からのローアングルのカメラを通過していく、デービーがデローの首を絞め殺す、カッバックで大ロングになり、横へ逃げ去るシャイアン族と奥から疾走してくるポーニー族、もうもうと煙と土ぼこりが上がる大ロングショットが異様に美しい。

本作はフォードに珍しい「高さ」の映画だ。デービーの命綱をジェッソン(シリル・チャドウィック)が切って崖から落下させる場面だ。さらに白眉なのがデービーとジェッソンの殴り合いの場面だ。二人の殴り合いをミリアム(マッジ・ベラミー)は布壁の裏からシルエットで目にする。次の瞬間、ミリアムは殴り合う二人の間をナイフで縦に布を切り裂いて止めに入る。これは鮮やかな「高さ」のショットだ。

本作は鉄道建設、デービーの敵討ち、デローの悪巧み、デービーとミリアムとジェッソンの三角関係、4つの物語がグリフィス風に絡みながら構成されている。ミリアムがなかなかデービーを許さないのがいい。西部に旅立つデービーをミリアムが見ているロングショット、ミリアムが振り向いてカメラへ首を振りながら寄ってくる、奥には去っていくデービー、このワンカットが素晴らしい。二人の和解は線路に立つデービーを横から捉える、上手からミリアムがインする、ロングのパラショットになる、デービーは逃げるわけでもなく近寄るでもなく宙ぶらりんになる。素朴な横パラのロングショットのワンカットで二人の和解を見せるのはフォードの至芸である。
フォックス社 サイレント。
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