ジェイコブ

網走番外地 望郷篇のジェイコブのレビュー・感想・評価

網走番外地 望郷篇(1965年製作の映画)
3.8
旧友を見舞うため、古巣の長崎を訪れた橘真一。地元の極道一家旭組の若衆だった橘は、敵対する安井組に殴り込み、組長の安井に重傷を負わせた過去がある。橘は、安井組が現在も連日のように旭組の商売を邪魔しており、両者が一触即発の状態である事を知り、力になりたいと申し出る。仇敵の橘が戻った事を知った安井組は、さらに行動を過激にしていき、橘対策としてある殺し屋を雇い入れる……。
石井輝男監督網走番外地シリーズの3作目。コメディ色の強かった前作とは打って変わって、全編を通してシリアスな内容となっている。本作でカタギとして生きようとする橘だったが、過去からは簡単には逃れられない。敵のヤクザに殴れようとも橘はやり返さず、穏便に済ませようとするのだが、敵の手は緩むどころか、激しさを増すばかり。だが、橘の過去は悪い事ばかりではなく、窮地に陥った橘を助けたのが、網走刑務所の仲間である大槻達であった。
本作の特徴として、橘の元に現れた、肌の黒いハーフの孤児エミーとの関係を描いた事だろう。エミーは小さい頃に親に捨てられ、天涯孤独として生きていた。橘はエミーの境遇を不憫に思い、自分が親代わりになって世話をしようとすら考えた。印象的なのが、橘がエミーの実の母親を訪ねた際、「世の中にはな、あんな不憫な子を捕まえて、黒んぼだの何だのって心ねえ事言う馬鹿たくさんいるんだ!」「あんた、あの子の肌が黒いから捨てたんだろ!」と責め立てた場面。エミーもまた、自身の夢がスチュワーデスであると大人に言った際、「その顔じゃ無理だ」と言われたと語っている。本作が公開されたのは1960代であるが、その頃はまだ、人種差別が当たり前のようにあった時代である。そんな社会情勢の中でも、無垢な子供にすら向けられる差別の残酷さ、非道を描いている。
橘が世の不条理に怒り、放った台詞は残念ながら、現代にもまだ通じてしまっているのが現状である。高倉健という名優が放った台詞の重みを理解できる人が世界中に増えればいいという願うばかりだ。