『スワンの恋』Un amour de Swann (1984)
「僕は人生を愛し芸術的を愛した。今は昔の感情が貴重なものに思える。コレクションと同じだ。陳列ケースの様に自分の心を開ける。愛情を持って一つ一つを眺める。他にはない愛情だ。そして思う。これと別れたくないと」
「あれがスワン夫人だ。オデット・ド・クレシーだ」
「悲しげな目をしてるな」
「今じゃスワン夫人さ」
「もう若くないな」
「昔彼女と寝たよ。マクマオン大統領が辞任した日だ。500フランだった」
原作マルセル・プルースト。長大な「失われた時を求めて」の第一巻「スワン家の方へ」をピーター・ブルックをはじめとした脚本家が脚色。撮影はベルイマン作品で知られたスヴェン・ニクヴィスト。監督は「ブリキの太鼓」のフォルカー・シュレンドルフ。
アラン・ドロン、ファニー・アルダンが共演。主役カップルはジェレー・アイアンズとオルネラ・ムーティ。
アイアンズ演じるユダヤ人美術収集家シャルル・スワンとムーティ演ずる高級娼婦オデット・ド・クレシーの恋の物語。
二人は映画が始まった時すでに馬車の中でちちくりあっている間柄だ。告白場面もない。お互い好意を持ち深い仲なのにどこか信頼できない。オデットは高級娼婦だが男を弄ぶ様な悪女ではない。なのにスワンはもの狂おしく恋焦がれる。
ネットで調べると「失われた時を求めて」の隠された主題はユダヤ人と同性愛だそうだ。
主人公スワンは社交界のパーティーに出入りしているが有力なマダムが主催するパーティーには呼ばれなかったり所詮ユダヤ人だと陰口を叩かれたりする。そしてパーティーがお開きになった時「この馬車にあなたの席はないわ」と置き去りにされる。
アラン・ドロン演ずるシャルリュス男爵は登場時からハンサムな召使に色目を使ったりして同性愛者なのは明らかだ。(ドロンはトリックスター的なこの役を楽しそうに演じてる)
そしてスワンはオデットが同性愛なのではないかと怪しみ思い悩む。
スワン「この数年のオデットとの出来事は一体なんだったんだろう」
シャルリュス「そうか、結婚式はいつだ?」
恋愛すったもんだの挙句恋が覚めた時スワンとオデットは結婚する。皮肉な話。
スワンの煩悶ははっきり言ってよく分からない。オデットの人物像も不明のままだ。
だがスワンとオデットがパリ社交界のアウトサイダーのままなのは映画が始まってから最後まで同じだ。
映画「スワンの恋」は傑作とは言えないけれど「失われた時を求めて」入門としては色々興味を惹かれるところがあった。原作をいつか読んでみようかな。