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スワンの恋のodyssのレビュー・感想・評価

スワンの恋(1983年製作の映画)
3.5
【19世紀末フランス社交界の再現】

BS録画にて。
昔、ロードショウで見て以来、約35年ぶりの鑑賞でした。

プルーストの有名な大長編小説『失われた時を求めて』の第一巻を映画化したもの。
私は原作も(といってもこの第一巻だけ)遠い昔に読んでいるのですが、ほとんど覚えていません。
また、ロードショウを見てから35年たっているので、映画のほうも内容は完全に忘れていました。

今回新たに見てみて、ジェレミー・アイアンズが主演だったんだなと今更のように思いました。
現在のアイアンズは老人になっていて、正統派というよりは少し変わった役どころが似合うようになっていますが、35年前のこの映画ではフランス社交界に出入りしている、裕福なブルジョワながら貴族ではない青年の役がとてもよく似合っています。このときアイアンズは30代半ばですね。

ちなみにアイアンズの親しい友人の男爵役でアラン・ドロンが出ています。当時の彼はすでに40代後半。でもアイアンズと並んでも不自然でないのは、それだけドロンが若く見えるということでしょうし、また作中の男は皆ひげを生やしている(むろん、設定時代の風俗を再現しているわけですが)ので、年齢が分かりにくいということもあるでしょう。

で、主人公のスワン(ジェレミー・アイアンズ)が夢中になる高級娼婦がオデット。演じているオルネラ・ムーティがいかにもそれらしくていい。ちゃんとオッ○イもさらしているし(笑)。

筋書は、パリの社交界に出入りしている裕福な青年スワンが高級娼婦オデットにぞっこんになり、愛憎を交えた交際を繰り広げていくというものです。高級娼婦と付き合うこと自体は構わないのですが、間違って彼女と結婚してしまったりすると社交界からは遠ざけられてしまう。でも、この作品の主人公スワンは、色々あった末に高級娼婦と結婚してしまう。

この映画の見どころは、一つにはそういう、ブルジョワ青年と高級娼婦との心理的な駆け引きですが、もう一つは19世紀末のパリ社交界の様子でしょう。服装や室内調度や会話の妙など、当時のパリ社交界を再現するのに本作品はきわめて多くの労を払っています。

音楽についても、当時のサロンで演奏するヴァイオリニストに、世界的に著名なヴァイオリニストであるイヴリー・ギトリスが登場していたり、作品内の音楽を担当するのが現代作曲家として著名なヘンツェであったりと、第一線の人材が投入されていることを知っておくべきでしょう。

映画の中では交通機関は基本的に馬車だけで、それだけだとまあ19世紀かなと思うわけですが、ラストでオデットと結婚したスワンの娘(10歳くらいか)が登場するシーンでは自動車も(まだ馬車のほうが多いけど)路上を走っています。欧米で自動車が普及し始めたのは1910年くらいですから、この作品のメインの時代は19世紀末から20世紀に移るくらいのあたりということになりましょう。

映画の内容そのものは35年前にロードショウで見たきり忘れていたわけですけど、ロードショウを見たのは、地方都市生活者である私がたまたま上京していたときで、新宿の映画館でした。そのとき、近くの席に高校生かと思われる美少女がすわっていました。ベレー帽に似た(もう少し丸みのある)しゃれた帽子をかぶっていて、服装も洗練されており、中流上層の女の子かなと思いましたが、娼婦が登場するフランス映画を見に来るのが当時の女子高校生にとってはおしゃれだったわけでしょうね。今ならどうかなあ。
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