糸くず

十字砲火の糸くずのレビュー・感想・評価

十字砲火(1947年製作の映画)
3.7
ユダヤ人へのヘイトクライムを主題とし、アメリカの闇を真っ正面から描いたサスペンスドラマの佳作。

犯人ではなく動機に焦点があること、そしてそれがアメリカの奥底に常に潜んでいる差別と憎悪の連鎖を露にしているから、この映画は危険視されたのだろう。

なので、この映画の白眉は、フィンレー署長(ロバート・ヤング)がモンティ(ロバート・ライアン)の部下のリロイを説得する場面である。

モンティの異常さに違和感と嫌悪を感じながらも「面倒なことに巻き込まれたくない」と繰り返すリロイに、フィンレーがヘイトクライムの犠牲となった祖父の悲劇的な死を語る。「これが歴史だ」「次はネクタイの柄で殺されるかもしれない」という言葉は重い。

モンティに立ち向かう覚悟をしたリロイが鏡の前でネクタイをつけるのを止めるのも、憎悪に立ち向かう恐怖を匂わせていてよい。

ロバート・ライアンの怪演は見事だが、わかりやすい邪悪さでもあって、「差別と偏見は誰の心にもある」というメッセージが弱まっている印象も。

ドミトリク監督よりも、原作者のリチャード・ブルックスが監督を務めたほうが面白くなったような気もする。

〈蓮實重彦セレクション ハリウッド映画史講義〉
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