のりまき

トロイアの女ののりまきのレビュー・感想・評価

トロイアの女(1971年製作の映画)
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あまりに有名なトロイヤ戦争始末記。タイトル通り主役は女。なんせ始末記だからトロイの英雄はみんな死んじゃってるし、勝利したギリシャ連合軍側も被害甚大でメネラオスぐらいしか出てこない。
この作品の柱はK・ヘプバーン演ずるヘカベ。亡国の王妃たる彼女が主軸となって、悲劇の女たちを数珠繋ぎにする。娘カサンドラ、嫁アンドロマケー、仇敵ヘレネ。いずれも熱演なんだけど、ヘプバーンには勝てない。狂乱のカサンドラも、悲嘆のアンドロマケーも彼女の抑えた演技の前には霞む。イレーネ・パパスの悪女ヘレネは、犠牲者ではなく弁のたつ策士で、全ての女を敵に回しても平然として水浴びするは、着飾って会見に臨むは、肝の座ったキャラクターでかなり好み。でも比較するとヘプバーンの転倒マジックの前には旗色悪し。
ヘプバーンは魔女だと思う。シワシワでも、頬こけていても、スカーフ引っかかる顎でも、ボロを着ていても、醜くても、美しい。見とれてしまう。彼女の前では美女もただの小娘、ただの愚か者、ただの自立していない女になってしまう。本当にすごい女優だと思う。
作品的にも、床しい台詞回しに、シンプルかつ残酷なシナリオ。素晴らしい演出。音楽も大仰でないところが佳い。
特に美術!乾いた風景がただ広がり、アクセントと言えば青い空と炎しかなくて、だからこそ強く印象に残る。洞窟の中とラストのトロイ炎上が強烈。
衣装も素晴らしくて、黒と茶。とても地味な画面。白っ茶けた風景の中、革の軍装の兵士と襤褸を引き摺る女たち。例外は勝利将軍メネラオスと誘惑者ヘレネだけ。
女たちの着ている襤褸が際どいバランスで美しい。特にカサンドラの裂け目が全て計算されたドレス!下着のポヤポヤした毛織のシミーズも!エキストラ一人一人の服も、紐でショールを押さえたり、輪っかでマントを押さえたり創意満載。当然ながらヘレネの背中がグッと開いたドレスも忘れずに。
舞台芝居なので好き嫌いはあるだろうが、非常に上手く映像化してあると思う。子供をちゃんと突き落としているし(←語弊!誤魔化していないということ。)女たちを馬で蹴散らすシーンもある。かと思えば群衆をコロスとして扱っていてそれが功を奏している。詠唱とか、分割台詞とか、ヘンテコになりがちなのを上手く反転させている。
特に中盤の木馬回想のシーン。これでもかのアッブでつなぐのだけど、一人一人の顔がスッピン系にもかかわらず美しくて全然飽きない。心揺さぶられる。この監督、頭いいなぁとしみじみ思った。
見応え十分のお勧め映画。
エキストラの女性たちのオリーヴの目とギリシャ鼻を見ているだけでも楽しい。
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