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ドラキュラのnoteのネタバレレビュー・内容・結末

ドラキュラ(1979年製作の映画)
3.4

このレビューはネタバレを含みます

1913年、イギリスのとある海沿いの町の沖合いで、1隻の船が荒れ狂う嵐で難破した。近くにあるスウォード精神病院に静養を兼ねて滞在していたミーナはある夜、難破船を見に行くと、不思議な狼に導かれて洞窟に入り、倒れている1人の男を発見。実はその男は難破船にいた吸血鬼ドラキュラ伯爵だった…。

お馴染みブラム・ストーカーの原作を元に、1970年代にブロードウェイで大ヒットした舞台版ドラキュラを同じキャストで映画化した異色作。
雰囲気のあるロマンチックなホラー?の佳作である。

ドラキュラにフランク・ランジェラ、ヘルシング博士に名優ローレンス・オリヴィエ、ヒロインのルーシーに「針の眼」のケイト・ネリガン、病院長にドナルド・プレザンスという当時の豪華キャスト。
音楽はジョン・ウィリアムズで、監督は職人監督ジョン・バダムとスタッフも豪華な作品。

原作冒頭にあるトランシルヴァニアに住む怪人の恐怖という件が無く、ドラキュラがイギリスにやってくる所から始まるため、映画の冒頭、ドラキュラは異国からやって来たミステリアスでルックスの良い紳士のように見える。

若きフランク・ランジェラのドラキュラは、長身で気品があり、クリストファー・リーの演じたドラキュラに近い。
ヒッピー・ムーブメントの名残りがある70年代なので髪が長く、肌艶の良く、眼力のあるランジェラはホストやジゴロのような甘く優雅な雰囲気を持っている。

刑務所のような怪しい作りの精神病院が登場するものの、大半はヴィクトリア調のお屋敷や古い古城のセットが舞台。
舞台劇の映画化というせいもあるのだが、閉塞感のある環境で適齢期のミナやルーシーが異国の素敵な紳士(ドラキュラ)に誘惑されるため、本作は中盤までハーレクイン・ロマンスのようなラブロマンスが強調されている。
ソフト・フォーカスで蝋燭の光や、女性がドラキュラへ恋焦がれる熱い視線を送るあたりは、「ここは退屈、あぁドラキュラ様、どこかへ連れてって…。」という空気に包まれる。

つまり、本作のドラキュラは恐くない。
壁をスパイダーマンのように這って登るシーンはまるで「夜這い」。
女性に噛みつくシーンもジゴロのベッドシーンに見える。
当時としては珍しいレーザー光線による演出の効果もあるが、吸血シーンがセックスに見え、ロマンスが前面に出た作品であり、ブラム・ストーカー著の怪物の悲哀と化け物退治のエンタメである「吸血鬼」を期待すると肩透かしを喰らう。
牙をガッと剥き出して人を襲うシーンすらない。

原作ととても違うのはヘルシングの扱い。
吸血鬼ハンターの代名詞的存在として広く知られるヘルシング博士が、本作ではほぼ
「普通の父親」。
原作のヒロインのミナが本作で脇役であり、ヘルシングの娘に変更されている。
その吸血鬼と化した愛娘にヘルシングは杭を突き立てる。
直接的な描写はないが、復活しないよう実娘の心臓を切り取るシーンもあり、ドラキュラに娘を弄ばれて復讐に燃える(と言ってもオリビエが高齢のため不安要素たっぷりの)父親となっている。

なかなか面白いヘルシングの設定なのだが、最も驚くべき原作の改編は、ヘルシングがドラキュラに殺されてしまうところ。
クライマックスは、ドラキュラ逃走用の船内から、それまで頼りなかった若きジョナサンがドラキュラを太陽の光が当たる船上へと引き摺り上げてドラキュラを倒す。
満身創痍であろうとヘルシングが娘の仇を取って吸血鬼ハンターとしての面目躍如を果たして欲しかったが。

ホラー映画としてのアプローチは非常に弱く、刺激を求める方には非常に不満の残る作品と言わざるを得ない。

だが、色男に女性が惚れる火遊び的なロマンスの描き方が面白い。
女性たちは皆美しく、吸血鬼と化して眼を真っ赤に充血させるアナログな変貌が、どことなく「盲目の恋」に見えてくる。
女性のハートを虜にして生き血を吸う、魔性の魅力を持つドラキュラ像を若く魅力的なランジェラが復活させた本作の功績は大きい。

監督は「サタデー・ナイト・フィーバー」の大ヒット直後で、脂がのりきっていた頃の職人監督ジョン・バダム。
豪華キャストを相手取り、テンポの速い展開と何気ないシーンでもジョン・ウィリアムズの音楽で盛り上げる演出を施す辺り、職人としての手腕が存分に発揮している。

ロマンチック(エロティック)なラブシーン、ミニチュアだが映像のマジックを感じるダイナミックな船の難破や、狼や蝙蝠にパッと変化する特撮など見所は多数。
ドラキュラが蝙蝠と化して飛び去るのを見て、ルーシーが意味深な微笑みを浮かべるラスト・シーンは本作の続編の可能性(吸血鬼の存在は不滅である)も示唆させるが、個人的には70年代のウーマン・リヴ運動の影響下で「女性の自由恋愛」を表したものだと解釈したい。

原作好きや、ホラー・ファンから見れば物足りない作品である事は否めない。
だが、「オペラ座の怪人」のように古典をリスペクトしながらもエンタメとして昇華しようする「温故知新」な姿勢に好感が持てる作品だ。
豪華キャストとスタッフが揃い、実験精神のある作品である。
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