Jeffrey

ミスター・ミセス・ミス・ロンリーのJeffreyのレビュー・感想・評価

2.5
「ミスター・ミセス・ミス・ロンリー」

冒頭、電信柱に手錠で繋がれた若い女。夜道に車が一台止まる。拾われ、また棄てられる。オカマバーのマスター、百科事典、丸暗記、偽札作り。今、不思議なよくある話が描かれる…本作は神代辰巳と刹那が脚本を執筆し、神代原田美枝子を主演にし、昭和五十五年にATGで唯一監督した映画で、原田が原案、脚本、製作、主演をしている。因みに原案・脚本の刹那は彼女のペンネームである。出演はその他にも原田芳雄、三國連太郎、宇崎竜童、草野大悟などギルド作品に多く出演している役者が揃っている。このたびDVDを購入して久方ぶりに鑑賞したけど上映時間が長い分退屈であるが、原田の瑞々しい芝居と何かといつも暴力を振られている宇崎が本作でもボコボコにされている。また原田芳雄のランニングマンは笑えるし、破壊力抜群だ。

原田と宇崎そして原田芳雄の三人が作り出す奇妙な三角関係の落とし穴に近づいてくる三國連太郎…と言う説明が良いのと、誰が誰に操られているのかがストレンジ・シネマの中で感じ取れる八十年代を描いた作品の中では秀作だと思う。命がけの遊び=映画を作ることと話す女優原田が原案から手がけた意欲作として有名で、当時二十一歳だった彼女の意志にひどく心動かされてメガホンを撮ったのは日活ポルノ界のエース神代である。DVDの特典映像で原田美枝子のインタビュー映像があって見たのだが、彼女の面影がほとんどなくてびっくりした。悪い意味じゃなくて普通に綺麗な女優さんになっている。

さて、物語はオカマバーのマスター市雄は道端で電柱に手錠で繋がれた女、千里を拾う。千里は別れた男の合鍵を持ち歩く変な女だった。二人の奇妙な共同生活が始まる。出版社の辞書編集部に勤める三崎は、百科事典を丸暗記してしまうような男。市雄の事情で再び道端に棄てられた千里を拾った三崎は実は偽札作りの名人だった。三崎が千里を連れ帰った時、市雄が現れる。こうして三人が出会った。三人は偽札十五億円を使える金にするべく、宗形と言う金持ちを罠にかけるが…と簡単に説明するとこんな感じで、上映時間が長くて退屈だ。しかしながら私個人好きな役者が出演していると言うことで最後まで見れた。枠を嫌う監督が描いた作品である。

この作品原田のきれいな字と原田芳雄の丸字がクローズアップされるのだが非常に達筆で面白い。それと中島みゆきの"わかれうた"が流れるのはファンとしては盛り上がる(原田が口ずさんで歌っている)。ちなみにATG映画で中島みゆきの曲が流れるのはクロード・ガニオン監督の「 Keiko」に"踊り明かそう"がほんのり店内の有線から流れる程度である。それにしても映画は長いし退屈でつまらないが、よくこのような作品を思いついたなとアイディアにはびっくりする。だって、小説の中の主人公に自らの失われたアイデンティティーを重ね合わせる女が主役で、その存在証明と言えば自分を捨てた男達の名を刻んだアパートの数多くある合鍵の塊だし、幾たびも男に捨てられては電信柱に手錠で繋がられる彼女をまた違う男が拾う…しかもその男は国籍のないオカマバーのマスターと言う設定。それに神代監督が好んで描く三角関係や曖昧な四角関係など滑稽さを強めつつ演出したこの作品は、次回作に引き継がれるような感覚をもっている。
Jeffrey

Jeffrey