theocats

わが母の記のtheocatsのレビュー・感想・評価

わが母の記(2011年製作の映画)
5.0
物語に感動はせず監督の手際に唯々感心

出だしからセット、カメラワーク、アングル、照明、音楽、役者陣など全てのマッチングにオッ!となる。
それらすべての手際とフットワークの良さのせいで「呆け老人に振り回される家族」というテーマが重くならず、かといって軽くもなく適度な自然さを伴って描かれていたと感じられた。

「いやいや呆け老人がいると実際はもっと修羅場だから」という声も出てきそうだが、本作はその修羅場の凄さに主眼を置いたものではないのだろう。

ストーリーや演出に私の感情が激しく動くことはなかったが、それでもストーリーは勿論、演技演出・画作りその他の的確さ自然さに終始深く感心していた。どこかにまずさを感じたらその感心は必ずや打ち消されただろう。

長々書き過ぎることなく、見事な文芸大作にオール5とさせていただきます。

この監督の浅間山荘ものはカメラワーク以外はいい印象は残らなかったが、本作は全てに脱帽。


追記:一晩経って中村登監督「紀の川」と視聴後の印象がとても似通っていることを思い出した。
紀の川は地方有力旧家の一族興亡衰滅記。本作は上流家庭・親族の”母親を巡るある記録”。
どちらも強い感情体験は伴わずとも比類ない充実感が後に残る。
原田監督の記憶の片隅にもしかしたら紀の川があったかもしれない。

この作品のヤフー解説・あらすじ映画レポートに
<これまで豊饒なアメリカ映画体験を誇示してきた原田眞人も、あたかも<日本回帰>を遂げたかのような抑制した慎ましい語り口で新境地を見せている。(高崎俊夫)>
とあったので、映画評論家的にも明らかな作風の変化を感じ取れたということなのだろう。

032004
theocats

theocats