福福吉吉

わが母の記の福福吉吉のレビュー・感想・評価

わが母の記(2011年製作の映画)
3.5
◆あらすじ◆
1959年、東京に暮らす小説家の伊上洪作(役所広司)は父の見舞いに故郷の伊豆に帰った。実母の八重(樹木希林)に捨てられたという想いがある洪作は八重とあまり接していなかったが、父の逝去、八重の認知症の進行があって、八重と接するようになる。一方、洪作の娘の琴子(宮崎あおい)は他の家族が八重の気持ちを汲んでいないことに不満を持っていた。

◆感想◆
伊上洪作と実母の八重の長い間の隔たりと八重を心配する琴子の姿を描いた作品であり、認知症の進む八重と洪作ら家族がつきあっていく苦労とその中で確かめる家族の絆やそれぞれの心情を丁寧に描いた作品です。

ストーリー全体が静かに進んでいくため、緩やかに感じるがテンポ自体は決して悪くなく、八重と洪作たち家族のつきあいは古い時代の家族像を感じさせるものがありました。

伊上洪作は古いタイプの父親で、家族を自分の所有物のように扱う部分があって、また、怒鳴りつけることも多く、あまり印象は良くありませんでした。自分のおかげで家族が生きていられるという心情が強いキャラクターで現在ではアウトな感じがします。洪作は幼少期、家族が台湾に移住する中、自分だけが日本に残されたことを気に病んでおり、そのことが八重との関係に影を落とします。

母の八重は認知症が進行しており、自分が話したことを忘れたり、家族のことが分からなかったりして、他の家族たちに苦労をかけています。しかし、八重自身がどう思っているかは外見上、分からないので、本作を観ている間は八重の思考を他の家族と共に考えていました。

琴子は洪作の三女であり、洪作に反抗的な部分がありますが、現在の感覚からすると彼女の考えは至極真っ当であり、洪作が権力を振りかざし過ぎているように感じました。おばあちゃん思いの琴子は自ら八重の世話を買って出ますが、八重の暴れっぷりに琴子がギブアップする姿は面白かったです。それでも八重のために一番頑張ったのは琴子だと思いますし、とても好印象の人物でした。

ストーリーが終盤に近づき、洪作が八重と少しだけ心を通わせる部分がありますが、これがとても温かくて良かったです。それまで見えなかった八重の気持ちが少し垣間見えて心にグッときました。

現在の家族とは違う古い家族像でしたが、家族の中での繋がりという意味では現在にも通ずるものがあり、観ていて見応えがありました。わが母の記であるとともにわが家族の記でもある作品でした。

鑑賞日:2023年11月27日
鑑賞方法:BS日テレ
(録画日:2022年11月27日)
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