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精霊のささやきのTnTのネタバレレビュー・内容・結末

精霊のささやき(1987年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

 あまりにもセンチというかリリシズムというか、ピュアな映画だった。雪景色に反射する太陽光が印象的な今作は、そういう目も眩むような輝きを持っていて時折直視するのも躊躇われる、そういう純なるものを感じた。絵本のような懐かしい優しさに包まれた画面だった。

 つみきみほを立てるアイドル映画というような体裁だが、ここまで幻想的かつ寂しくなる程に静的な映画も珍しい。趣向は大林作品に近いのだろうけれど、かといって実験に邁進しゴチャついた風でもない。サナトリウムの奇妙な人々は「どですかでん」ぽい。そその他幾つかの映画からの影響を窺えるが、作風はどれとも違う。
 
 なんならちょっと「君たちはどう生きるか」っぽかった。冒頭の本筋になかなかいかない焦ったさと、夢の世界入ってから格段に奥行きをますところまで似てる。そして積み木とかいうモチーフが出てくるとなんかシンクロニシティを感じる。

 「君たちはどう生きるか」との類似点、それは根底に、人々をまとめ上げ等価に扱い繋げたいという思いがある点かもしれない。現実というシビアさの中で夢の中で繋がることで、自由を現実でも取り戻していく。夢はそうした人と人を繋げる役割や、トラウマを克服する場と化す。と書くとこないだ見た「パプリカ」みたいだ。言うなればみほはパプリカであり、他人の夢に現れては物事を解決に導く太陽の王”女”様だったのだ(パプリカ的発狂口調で)。

 あの滝の前の幻想でサナトリウムの人々が一同、「おーい」と呼びかけるのは、カットとカットを繋げることと人々を結ぶことが同時に達成された映画的な感動なのだ。彼らを仮にカットに映し出されるイメージだとしたら、主人公は彼らをのせるフィルムと言える。それが彼女が精霊であることの理由とも言えるのではないだろうか。

 美しい庭に春の到来を感じる。もういない精霊の献身的すぎる優しさと、彼女の存在がもういないということがとても切ない。子供時代に消えた皆が抱える純真さの喪失をまるで目撃するかのようで、これを商業ベースでやれた奇跡と監督の心意気に感服する。商業作品なだけあって名だたる役者陣が出演しているのも地味に凄い。
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