デニロ

精霊のささやきのデニロのレビュー・感想・評価

精霊のささやき(1987年製作の映画)
3.0
1987年製作公開。脚本植岡喜晴、岡村香織。監督植岡喜晴 。つみきみほの初主演作ということで、所属していた渡辺プロダクションの製作。渡辺プロダクションの植木等、谷啓が所在なげに戯れている。つみきみほに対峙する役に渡辺プロダクションの先輩范文雀。范文雀と言えばテレビドラマ「サインはV」で人気が出て、その後番組「アテンションプリーズ」にも紀比呂子の相手役で出演。「サインはV」の時はロングヘアだったけど、「アテンションプリーズ」では髪を切って出演。どれくらい切ったの?半分弱、という小話がある。わたしは紀比呂子の方が好きだった。後年、『地の群れ』を観てその目の強さに慄いた。

雪深い信州のサナトリウムに少女つみきみほが元気にやってくる。でも、そこは、こころに何かを抱えた人たちの療養所。大分調子の外れたつみきみほに管理人の范文雀はこころ穏やかではない。それだけの話。ドラマチックな筋はどこにもない。加藤治子、斉藤洋介、森本レオなども出演しているけれど物静かに佇んでいるだけ。謎の音楽家かの香織という人が出演していて、本作では真っ白いジグソーパズルのお部屋の心象風景の中で藻掻いています。というか、登場人物にそれぞれそんな背景が付けられております。つみきみほはそれぞれの人々の背景に滑り込むのです。それによって何が言いたいのかはさっぱりわかりませんけど。でも、その分からなさはあのラストシーンで許してあげましょうか。

この作品、本当に劇場公開されたんだろうか。興行収入が気になるところですが、その後、本作の監督植岡喜晴作品が商業映画では一本もみられないということは、そういうことなんだろう。渡辺プロダクションもつみきみほのアイドル映画のつもりが、意味不明の空漠ファンタジーになっちゃったんだから。株価と不動産ばかりがあがっていった時代。金は使わないと目減りする。そんな強迫観念で金が流通していた。24時間、戦えますか、とか、5時から男、の雰囲気が出てきた時代。何か忙しかった。たいしてチェックもしていなかったんじゃないか。

つみきみほには不幸だったかもしれないけれど、つみきみほの無批判のファンにとっては楽しみの尽きない一篇だと思う。

国立映画アーカイブ 逝ける映画人を偲んで 2021-2022(脚本監督/植岡喜晴) にて
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