川島雄三の初期作品かと思いきや、キャリアとしては中盤くらい。冒頭の観光地と被さる英語のセリフが非常にメタ的でニヤリとさせられる。
喜劇タッチで進んでいくが、徐々にかなりややこしい相関図になり、どう転がるのかわからないスリリングな展開となる。それでいて、混乱しないのは川島雄三の卓越した手腕による。
さて、実質主人公といえるのは、ジャンヌ・ダークのお松ちゃんで、気風がいいヒロインを好演。大学の講義に潜り込み
井原西鶴に反論（？）するシークエンスは素晴らしく、後の「女泣き」につながる展開は見事。鶴田浩二も飄々と学生社長を好演しており、やや粗めなストーリーをカバーしている。
ラストの川島節はわかっちゃいるけど、泣ける。スリ家業という業を清算するには、去るしかない（そして最後にメダルを返すのだ）。「サヨナラだけが人生だ」という美学がガツンと伝わる。荒唐無稽な話だが、天才監督の手腕を堪能できる一作である。

2021.11.21＠国立映画アーカイブ

川島雄三の松竹時代の作品。

日守新一、大坂志郎など、常連俳優も出演した群像劇。鶴田浩二の初期作品らしい、鶴田浩二アイドル映画ふうでもある（←このジャンルは結構好き）。

この監督の松竹時代の作品は、松竹らしいホームドラマのテイストと、監督の奇想天外なテイストがミックスされているて、個人的にはとても好み。

この作品も、ホームドラマながら、スリの軍団や日守新一の2役など、風変わりなところもあって面白い。特に、スリに育てられた角梨枝子のキャラクターが魅力的で、印象に残る。

映像はこの監督にしては普通だけど、桂小金治と食堂の娘さんが話す場面と、日守新一と鶴田浩二が料亭に入る場面などは、凝った長回しになっている。

「NFAJコレクション2021秋」