和桜

ピカソ-天才の秘密/ミステリアス・ピカソの和桜のレビュー・感想・評価

3.9
ピカソの製作過程を様々な角度から撮影し、彼の思考を探ろうとする実験的なドキュメンタリー。ここで描かれた絵の殆どは処分されたため、この映像はフランス政府から国宝にも指定されている。ここでしか見られない、しかも本人の姿や言葉も語られる貴重な作品。

同じ画布へ何度も描き直し創造と破壊を繰り返すピカソ。描いた絵が次々と塗りつぶされ新しい絵になるため、完成した絵からは全く想像出来ない道筋を辿っていることがわかる。
その何時間もの製作過程が数分に編集されコマ送りされるため、油絵を描き出してからはかなりアニメチックに。特に最後の作品は、ピカソの思考過程がそのままアニメーションとして躍り出すような傑作だった。
よくこの映像を後世に残してくれたし、自分達が美術館で見ている絵の裏側にはこうした思索や迷いや筆跡があるんだなと感動してしまった。他の画家さんも同じように撮って欲しかった。完成した絵とそれを描いている姿を見るのとでは全く違う。

撮影陣もかなり豪華。あまり表には出てないけど、こんなにもスリリングな作品になったのは編集のお陰でもあるように思う。
クルーゾー監督も最初は友人としての立ち位置なんだけど、「フィルムが少ないから急いで!」と徐々に監督モードへ入っていき現場の緊張感は高まっていく。そんな中でもピカソは「あと何秒だ?」と淡々と描き進め、名匠同士の掛け合いがセッションとも即興劇とも言える装いを見せてかなり熱かった。

本物のピカソが動いている所を初めてみたけど、多くの女性に愛されたと言われているのも理解できる妙な魅力がある。
死後に評価された画家は多いけど、ピカソが常に時代を先取りしてきたと評価され続けたのはこうした社交性やサービス精神も関わっていたのかな。深淵を見続けようとしながら、他人を排さずに伝えようとする柔らかさを感じた。
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