あかつか

一粒の麦のあかつかのレビュー・感想・評価

一粒の麦(1958年製作の映画)
4.0
「上野に着くのは朝6時だから皆ぐっすり眠るように!」って、そんな列車の90度の椅子でどうやってぐっすり眠れようか

金の卵。冒頭、動員される様子はさながら学徒出陣のよう。東京から故郷に届く手紙も戦地から届く文面に似ている。みんな工場のラインに送り込まれるのかと思いきや、蕎麦屋やら家政婦やら自動車修理工やらもいたりして。そして「月1500円しかくれねーだす!夜学にも通わせてくれねーし、約束が違いすぎるだす!」と訴える卵

実際のところ逃走卵があとを立たず、上野駅には逃亡防止の監視員が立っていたという話を聞いたことがある。高度成長期ってのはこんな状況に支えられてたのね。逆に言うとここまでブラックしないと成長なんて難しいんだろうな、しみじみ。

卵たちも大変だが、その働き口の斡旋と、就職後=卒業後のアフターケアまでする菅原謙二先生も大変。需要と供給で袖の下まで飛び交う光景を見て「就職係なんかやってらんねー」感

タイトル「一粒の麦」とは、イエス様が過越祭の直前に話したたとえ話。つまりもうすぐ処刑される時のお言葉。ひと粒の麦は地に落ちなければひと粒の麦のままだが、地面に落ちることで(犠牲になることで)そこから豊かな実をつけるようになる、とかなんとか。

言わずもがな、卵たちもそれを支える菅原先生も立派な一粒の麦。しかし誰かの犠牲の上に成り立つ社会ってなんなんだ。

若尾文子「真の教育者になって欲しいわ」
菅原先生「進学組だけが生徒じゃない!」

いつ見ても若尾文子の包丁さばきはうまいなーと思う。本作でも台所で大根トントンやってた。当時の女性からは当たり前のレベルなのかもしれんが。

オバケ煙突モクモクの東京の空と、福島の雪景色
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