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マイ・アーキテクト ルイス・カーンを探してのyamakawa3000のレビュー・感想・評価

3.9

ドキュメンタリーです。
現代建築の巨匠 ルイス・I・カーン。
彼の唯一の息子であるナサニエル・カーンは、
彼が残した3つの家族の最後の愛人の子でした。

現代建築の巨匠は約30年前に
ペンシルバニア空港のトイレで
たった一人でこの世を去り、身元不明のまま
3日間も死体安置所に放置されていました。

ナサニエルは自らの父の存在、
父の死を受け入れることができず、
理解できぬままに過ごしてきました。

そして、父の死から25年たち、
現代建築の巨匠である父が残した
建築物を約5年をかけて巡っていくことで
父の存在を理解しようと試みたのです。
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まずルイス・カーンという建築家をご存知ですか?
建築ブームの昨今にあって、
ル・コルビュジエ、
ミース・ファン・デル・ローエ、
フランク・ロイド・ライト、
あたりの3大巨匠なら、
どこかで聞いた事あると思いますが、
彼らに劣らない巨匠なのです。

しかしながら、その建築様式は一線を画し、
古代遺跡を想起させる様な神秘的で、
大胆な幾何学模様が特徴です。

また彼は、その建築に対する職人的な人柄から
作品がとても少ない事でも知られています。

で、英雄色を好むを地でいってたのか、
本妻の他に愛人を2人も作り、
その全てに子供がいるという
とんでもない奴だったようです。

今作の監督であるナサニエルは
一番最後の愛人の子供で唯一の男の子でした。

ナサニエルは遺言変わりに父の建築物を巡り、
父にゆかりの深い人々に逢っては当時の話を聞いて
まわりました。

つまり今作の主軸は建築ではなく、
ナサニエルの自分探しのための
『父を訪ねて三千里』なのです。

しかしこれが逆に建築物の素晴らしさと
神秘さを引き立て、永遠性と人間性を
同時に体感でき、とても心に残る作品となっています。

ルイス・カーンという人については、
本編に散りばめられた本人の言葉や
現存する映像からの引用よりも、
彼に関わった人々の
どれほど彼を慕い、おそれ、愛したかの
表情のほうが伝わってくるようです。

本編が進むにつれ、
カーンのそれぞれの子供などが登場し、
より核心に迫っていきますが、
ナサニエルは余計にわからなくなる気がしました。

ですが、カーンが晩年に心血を注いだ
インドとバングラデシュの建築物を巡るうちに
ナサニエルに一つの答えが見出されたようです。

バングラデシュは当時パキスタンからの独立直後であり、
民主化を象徴する様な建築物を必要としていました。
カーンはここでバングラデシュのこれからを大きく
牽引する巨大な素晴らしい建築群を設計したのです。

この偉大な功績に対する
バングラデシュの建築家シャクスール・ワレスの
熱い熱い語りが僕の心につきささりました。
目頭が熱くなり不覚にも泣いてしまいました。

世界を創造する事を神に許された男。
ユダヤ人であり、顔に大きな火傷を負った彼に
神は最も天に近い崇高な建築を生み出す力を与えました。

ナサニエルにとって良い父親ではなかったはずです。
いやそもそも父親であった事は一度としてなく、
ただただ純粋に永遠に献身的に
この世界の創造の神の子であり続けたのでしょう。
(現に巨匠は死ぬ間際破産寸前でした。)

ナサニエルに父親との思い出はあまりありません。
でも思いたった時に 世界に散りばめられた父の偉業に向き合えば、
父と語る以上のものを感じる事ができるはずなのです。

神秘は太古に失われたわけではありませんでした。
20世紀にも人は神秘を創ることができたのです。

最後に彼の言葉を書いておきたい。


『最後に一言いっておきたい。

 過去の建築家たちによって
 造られた建物に敬意を込めて述べる。

 かつてあったものは常にあったものである。

 今あるものも、常にあったものであり、
 いつかあるであろうものも、常にあったものである。

 ビギニングスとはこの事だ。』


 ルイス・カーン


※以前紹介した『オランダの光』と同じ配給会社。
 とても良いドキュメンタリーでした。
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