なべ

パプリカのなべのレビュー・感想・評価

パプリカ(2006年製作の映画)
4.0
 新文芸坐、改装前の今敏二本立て後半はパプリカ。
 開始早々息つく暇もなく、次から次へと繰り出されるヴィジュアルイメージ。カットからカットへ、シーンからシーンへ、迸るアイディアと溢れる視覚情報に溺れそうになる。何が起こっているのかさっぱりわからないけど、気がつけば気分が高揚しトランス状態に陥ってる。これって催眠だよね。
 サーカスから始まる粉川の夢のシークエンスの謎めきとエキセントリックなはしゃぎっぷりはまさにドラッグをキメてるような興奮と快感。
 さらに、オープニングクレジットに推移してからの縦横無尽な疾走感も、三半規管にいたずらされてるような酩酊感が伴う。
 何度も見てるから、さすがに慣れたつもりだったけど、初めてスクリーンで観ると、改めて極彩色の悪夢に飲み込まれそうになった。
 千葉敦子がラボに着いたところでやっとトランスから解放されたけど、人物紹介と状況説明があるから気が抜けない。
 そのうち所長がおかしなことを口走り始めて、ん?なんて?え?こわっ!と静かに狂気が始まっているのだと気づく。ここ好き。ゾワゾワする。
 例によって、虚構と現実の境界は執拗に侵され、互いに越境し干渉し合う。過去の出来事、夢、現実の事件、狂った幻影と、各レイヤーの輪郭が曖昧になっていく。この複層設計がまた緻密で、曖昧なのに緻密という気色の悪い仕掛けがたまらん。そりゃノーランもパクるわ。
 実は何度観てると書いたが、クライマックスの巨大化シーンは3回目。なぜなら大抵その前に止めてしまうから。膨らみ過ぎた夢にもそろそろ飽きてきた頃だし、何よりもう謎は解けてるからね。正直、このシーンだけつまんないんだよな。粉川の夢のあいつの正体がわかったところでぼくは満足なのだ。
 小山内の屈折した思いと恥ずかしいエゴイズムであっちゃんを陵辱するシーンは不快ながらも見応えがあるだけに、その後の巨大化っていう陳腐な表現にちょっとがっかりしちゃう。その前に日本人形が巨大化してるしね。いや、「裸のジジイとあっちゃんの決闘こそ見どころじゃないか!」っていうファンにケチをつける気はないよ。あくまでぼくの好み。
 あと、これもぼくだけかもしれないけど、千葉敦子の容姿に林原めぐみは合わないと思うんだ(パプリカはバッチリ!)。もちろん林原めぐみはパプリカの時と敦子のときとで演技を変えてるけど、あの特徴ある少女声はどう聴いてもあっちゃんじゃない。何度観ても、あ、林原めぐみだと我に返ってしまう。残念だ。

 今敏の偉大なる虚実の企みがパプリカで終わりなのはなんとも惜しい。この先あの幻惑スタイルがどう進化するのか、どんなふうに深まっていくのか、じっくり見極めたかったよ。
なべ

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