もとまち

裸のキッスのもとまちのレビュー・感想・評価

裸のキッス(1964年製作の映画)
3.8
開幕早々、主人公の女がカメラに向かって何度も何度も何度もハンドバッグを叩きつけてくる。成すがままボコボコにされる男。勢いのあまり女の髪がズレ落ち、スキンヘッドが露わになる!......初っ端から度肝を抜かれる衝撃的なオープニングで、あっという間に映画の中へと引きずりこまれてしまった。プツ切りな編集とちぐはぐな音響が、舞台となる田舎町の偽物じみた側面を暴き出していて面白い。感動的な物語のように綴られる前半の展開にすら、どことなく歪なムードが漂っている。そして、平和な田舎町のベールがとうとう剥がれ落ち、おぞましい真実が剥き出しになる後半の凄まじさ。子供たちの優しげな歌声が、大人たちの搾取構造を浮かび上がらせる戦慄。娼婦であることの過去と戦いながら、醜悪な世界の真実にたった一人で立ち向かう主人公・ケリーのキャラクターが素晴らしい。追い詰められても意志を曲げず、悪には容赦ない暴力をぶつける。日陰者の扱いを受けるケリーが実は真っ当な人間で、市民や警察たちの方が偽善的な存在であるという、社会における正常と異常の曖昧さを強烈なまでに叩きつけてくるフラー節にただただひれ伏す。ラストシーン、町を去るケリーの姿を訝しげな表情で見つめる住民たちのアップが強烈である。ケリーの言う通り、人々の間で渦巻く偏見をそう簡単に取り除くことは出来ず「現実はそう上手くいかない」のである。
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