ひでぞう

青い凧のひでぞうのレビュー・感想・評価

青い凧(1993年製作の映画)
4.9
 中国の戦後、1953年から文革初期の1967年までを、普通の人々が過酷な政治の時代をどのように生きたのか、丁寧に、詩情豊かに、そして冷徹に描いた傑作。反右派闘争、大躍進時代、文化大革命、そうしたうねりに、鉄頭一家は、翻弄される。そのことからは、共産党の政治方針や党の官僚主義というかたちで批判することは容易いが、しかし、普通の人々が、それらを下支えし、むしろ「悪意」を増幅していることに、気が重くなる。最初の夫:少竜を右派として密告した李国棟が、残された家族の面倒をみることで、その「罪滅ぼし」をして「心が静まる」というところに、わずかに救いがあるのかもしれない。
 監督の田壮壮が、自らシナリオを書き、「この映画の中の物語は事実であり、完全な誠意を持って描かれている」(『カンヌ映画祭プレス』)としていることからわかるように、特に、文革での仕打ちは、ほぼそのまま、監督の実体験であろう。
 台湾の『牯嶺街少年殺人事件』、イタリアの『輝ける青春』(あるいは、ベルトリッチの『1900年』を加えてもよいか)など、戦後史とそこに生きる人々の姿は、現在の状況であるがゆえに、心に沁み入るものがある。
 
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