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死の棘のmingoのレビュー・感想・評価

死の棘(1990年製作の映画)
3.8
早稲田松竹にて鑑賞。
カンヌグランプリか〜て感じではあったけど、大画面で(傑作)泥の河、(習作)伽倻子のためにときて、(集大成)眠る男、その都度違った小栗映画の美学を突き付けられるから観るのに覚悟のいる映画だった…今回は特に…

昭和の小岩の町並みがノスタルジックでかつ狂気地味てた。浮気をした夫を赦すことができない妻が壊れてゆく様はコミカルで切ない。松坂慶子が壊れはじめるとき敬語じゃなくなるのがリアルだったし、感情を読み取れない夫役の岸部一徳の表情は常に死を意識させる一方、悲愴感を感じさせない不思議なオーラを纏っている。
そんな2人の言葉は同じことをひたすら堂々めぐりする。視線はがっちりかみ合い、ごまかしのきかない人間関係へと観るものを導いていく。
それはつまり不気味さと美しさと笑いを兼ね備えた極めて世にも奇妙な夫婦のどつき合いを真摯な眼差しで見つめる子供たちによって清められた家族の肖像画のような映画。心の深いところで結ばれたことを暗示するラストの描写は個人的にグッときた。。。

また俗界の物語でありながら、天井の視線で浮き彫りにしたりするような小栗映画のカメラマン安藤庄平の絵がこれまた活きており、素晴らしく創造性があった。総じて、松坂慶子の強い眼と、岸部一徳の死んだ魚のような眼のアンバランス差が脳裏に焼きついて離れない。本来は夫役が中井貴一だったらしいが、そうじゃなくて良かったと心の底から思う次第である。
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