ーcoyolyー

死の棘のーcoyolyーのレビュー・感想・評価

死の棘(1990年製作の映画)
3.8
音楽が細川俊夫。流石いい仕事してらっしゃる。

島尾ミホさんってものすごく狂気の人として語り継がれてますけど(語り継がれているのを知っているだけで島尾敏雄の本も島尾ミホの本も読んだことないです)、この人何も悪くないし心から信頼していた人物からこうやって裏切られたらこうなっちゃうのもよく分かる。別に狂ってないよね、言動一貫して筋が通ってるし。狂ってるのは敏雄の方。自分のケツを自分で拭けずに逆ギレして狂った振る舞いをして逃げようとしているの見るとつくづく情けなくなる。こんな男を信用していた自分も情けなくなる。そういう心情が分かりたくないほどに分かってしまうため、島尾敏雄ではなくミホを狂気の人に仕立て上げようとしたホモソーシャルの意識クソ喰らえと思うわ。自分たちに都合の悪い女をすぐ「キチガイ」として追いやるあいつらのせいでどれだけの女が冤罪で閉鎖病棟に閉じ込められてきたことか。私はカミーユ・クローデルを他人とは思えないので常にそのことで怒りのあまり血の涙を流してますよ。

島尾ミホも島尾敏雄も読んだことないながらも、ミホさんが90近くなって最期家で倒れて亡くなっていたのを島に遊びにやってきた孫のしまおまほに発見されたというニュースは把握しているので、なんだかんだでこの人晩年(しまおまほ視点から見ると)島で穏やかに過ごせていたという情報がお守りとなって映画を正気で見通すことができた。祖父母がこんな感じで父がこんな環境で育ったしまおまほが良い意味で凡庸な人間であることがこの一家の物語の何よりも大きなハッピーエンドで救世主であるなあと思って。救世主というのは特別な才能のことではなく偉大なる凡庸さであった、それってものすごい救済じゃないですか?少なくともこの家族にとっては。あのお兄ちゃんはあんな環境で育ったけども自分の娘を負の連鎖に巻き込むことはしなかった、負の連鎖を断ち切って偉大なる凡庸さを大切に育むことができた。

『Olive』に突然連載を持ち始めた頃から細く長く知っているしまおまほにこうやって救われる日が来るとは思いもしなかったので縁とは不思議なものですね。
ーcoyolyー

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