湯っ子

死の棘の湯っ子のレビュー・感想・評価

死の棘(1990年製作の映画)
4.3
狂気と滑稽さ、それ以上にどうしようもなく愛を感じた。
現実の空はいつもどんよりと厚い雲が空を覆っているのに対し、ふたりの出会った島の思い出は鮮やか。青くあかるい海、夜の浜辺での焚き火を囲む舞踊、森の中を白装束で歩く人々。島での思い出は、ふたりにとって大切な宝物なのだろう。
その一方で、憂鬱な曇り空と寂寞とした景色にもとても心を惹かれた。干上がった川原の船の上、家族4人で菓子パンを齧る姿に込み上げる感情がなんなのか、自分でもよくわからない。
穏やかな家族団欒が突如修羅場となる家庭の中で、それでも夫婦は精一杯に子供たちを慈しんでいる。子供たちが父母の姿をじっと見つめている姿は不憫とも思えるし、何かとても神聖な生き物のようにも見えた。

岸辺一徳の、この世の人じゃないみたいな雰囲気が昔から好きだ。松坂慶子は姿もだけど声が綺麗で、この人が話すと耳が喜ぶ感覚がある。
このふたりの空気感があってこその作品、素晴らしかった。

genarowlandsさん、再鑑賞のきっかけをくださりありがとうございます。
若い頃には、まるで不条理マンガを読むような感覚でしたが、年齢を経て、もっと深く心に迫るものがありました。
湯っ子

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