シンタロー

悪魔の往く町のシンタローのレビュー・感想・評価

悪魔の往く町(1947年製作の映画)
3.7
エドマンド・グールディング監督×タイロン・パワー主演。
職を転々としていたスタン・カーライルは、ギークショー等々を雑多に披露する見世物小屋で、ニセ読心術師のジーナと、その夫でアル中のピートの下で働いている。スタンは一座の若手モリーから、夫婦は暗号を使った読心術で昔は花形だったと聞き、暗号を聞き出そうとジーナに近づく。そんな時、ジーナのタロット占いで不吉な暗示が…その晩、飲み足りずにふらついていたピートと、スタンは世間話を交わし、仲間から買った酒瓶を渡して別れるが、翌朝ピートは急変…。
人間の果てしなき欲望が、底知れぬ絶望の淵まで転落させていく因果応報を描いた恐ろしい作品。アル中や差別的描写も多々あって、だいぶ前に観たきりだったのですが、友人の薦めもあって久々に再見。ギークGEEKは70〜80年代には"変わり者"や"ヲタク"くらいのスラングとして使われるようになりますが、この時代の見世物小屋のギークはワケが違います。本作では鶏を噛み千切ってみせる野蛮芸人として描かれます。フリークスはシャム双生児のような身体的奇形を見世物にしたのに対して、ギークは身体的な奇形はありません。酒を没収されたギークが大暴れしたのを見て、ピートが奴も昔はスターだったと語るシーンがあります。このシーンは後半の強烈な伏線になっています。昼夜問わず酒を飲み、覚醒めた瞬間から酒を欲して、御神酒だろうが消毒液だろうが、構わず飲もうとする人が身近にいた人間としては、しんどい展開が多い…ですが、これ以外にも前半に張り巡らされた伏線が、後半見事に回収されていく様は見応え十分。重要な小道具となるタロットカードやガラス瓶の使い方もおもしろい。陰鬱で救いのない世界観は当時としてはかなり斬新だったと思われます。これではあまりにも酷いだろって感じの、ラスト取ってつけたような蛇足は残念。ちなみに原作はさらに陰鬱でドロドロしてるそうです。ギレルモ・デル・トロのリメイクは未見。好きなキャストが多いのでいつかは観てみたいものです。
主演はタイロン・パワー。彫りの深い美貌とキレのある身のこなしで、王子様的人気を博した方ですが、本作は年齢的にも限界があることを悟った本人が持ち込んだ企画とのこと。ダークサイドのある色悪キャラは後にも活かされていきます。単なるワルでなく、罪の意識に苛まれる姿もうまく表現されています。ヒロインは3人。ニセ読心術師の熟女ジーナ=ジョーン・ブロンデル。若手の電気人間でスタンの妻となるモリー=コリーン・グレイ。精神科医でファム・ファタール的存在のリリス=ヘレン・ウォーカー。三者三様の個性が出ていて、それぞれ好演ですが、やや華が足りない感も。その分タイロン・パワーが出ずっぱりで見目麗しく、スーツ姿もTシャツ姿も眩しく、大いに楽しめました。
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