シズヲ

ロイ・ビーンのシズヲのレビュー・感想・評価

ロイ・ビーン(1972年製作の映画)
4.4
“首吊り判事”ロイ・ビーンの生涯を通じて描かれる西部への郷愁。ならず者達をぶち殺した酒場で法律書を手にし、犯罪者崩れの連中を保安官として雇い、法も規律もろくに知らない癖に判事として町を統治する。ケチな野郎から本物の悪党まで容赦なく絞首、あるいは射殺していく姿ははっきり言ってアウトローそのもの。本人も「俺が正義だ」的なことを堂々と言っちゃってる。だけど憧れの“女神”にがっつり入れ込んだり、本物のクマ(役者顔負けの熱演ぶりだ)と戯れたりするような愉快な一面を見せるせいで妙に憎めない。こんな粗野な男に投影された「野蛮で自由だった時代」に対する想いがユーモラスに綴られる。

冒頭の異様な銃撃戦を経てから中盤までは個々のエピソードの積み重ねによって構成される。暴力的なのに何処か滑稽なムードによって話が進んでいき、ポール・ニューマンのふてぶてしい演技が魅力的に輝く。悪党が町を牛耳り、暴力が結果的に平和をもたらすという流れは「英雄が活躍する西部神話の解体」として生々しい臭いを放っている。なのに本作は最終的に「ロマンチックな神話」のような構図へと着地するという不思議なねじれを見せているのが面白い。登場人物が語り部的にモノローグを喋るメタ的な演出、セピア色の写真が表す「在りし日の昔話」のような作劇性も印象的。

終盤からは空気が切り替わり、それまでの蓄積を元に時代の零落・変化が始まる。公演に行くことも出来ず、死別を経験したロイ・ビーンの姿が実に切ない。彼の哀愁に呼応するかのように西部開拓時代は終わり、かつてのような荒々しい息吹も喪われてしまう。そんな潮流に対して足掻くことを選んだ老人達の勇姿が泣けてくる。神々しい後光を背負って馬にまたがるロイ・ビーンの佇まいは(彼がそんな人間とは到底言えないにも関わらず)もはや神話の英雄そのもの。『ワイルドバンチ』の悲哀と華々しさに『砂漠の流れ者』の穏やかな想いを乗せたような愛おしさが染みる。そして最後の最後に現れるジャージー・リリー嬢が美しい余韻を残す。
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