コマミー

裸のランチのコマミーのレビュー・感想・評価

裸のランチ(1991年製作の映画)
4.2
【頭の中がグチャグチャに溶けてゆく…】


[気まぐれ映画レビューNo.175]


最近、8月18日に公開される"デヴィッド・クローネンバーグ"の新作「クライムズ・オブ・ザ・フューチャー」を試写で鑑賞した。デヴィッド・クローネンバーグらしい、奇妙で複雑な…おまけに造形も凄い作品になっていた。
いよいよ明日公開される為、是非その世界観を体感してほしい。

クローネンバーグの作品で"造形"の事で言うと、私は本作を思い出した。

本作は"ウィリアム・S・バロウズ"と言う50年代に一世を風靡した作家の同名小説を映画化したものだ。ただこの小説は、当時発禁処分された猥褻な内容の作品と解釈され、政府から処分を受ける。"薬物中毒者"の小説家志望の主人公"ウィリアム・リー"が辿る、激しくも哀しい"妄想と幻想"を描いた物語で、薬物中毒者が経験する"悪夢のような出来事"を、特にまとまった構成がなされている訳ではないが、非常に強烈に描いた作品になっている。

原作もそうだが、映画でも薬物中毒者が辿る囚われの道を非常に鮮烈に描いている。と言うのも、この原作自体、"バロウズそのもの"を描いている物語だからだ。本作は実は"同性愛"についても描いているのだが、これもバロウズ自身が同性愛者だからだ。
そして本作(映画)に登場する、"タイプライターゴキブリ"や人間を"ハイにさせる液体"を出すエイリアンのような生物も、バロウズが辿った囚われの象徴なのである。
そして本作の結末も非常に興味深いもので、そこで描かれるのは「脱却」。それはすなわち、自らが溜め込んでいる"苦悩との折り合い"を描いているものであり、とても味があった。バロウズと薬物の描き方としては、「ジャンキー」と言う彼の小説も読んでほしいのだが、本作を見てても充分薬物の恐ろしさは伝わった。

描き方もそうなのだが、やはり"ハワード・ショア"とアルト・サックス奏者である"オーネット・コールマン"とのデュエットによるスコアが、本作が奇妙な世界観にも関わらず心地いい響きの音楽を響かせていてとても好きだ。クローネンバーグと言えば"OPクレジット"がとても味のある事が多いのだが、本作が一番好きなOPクレジットである。
主人公を演じた"ピーター・ウェラー"の佇まいがとても美しい。

最後に言い忘れたのだが、本作は忠実な映画化ではない。結構クローネンバーグ並みに変えて描いているのだが、バロウズの世界観も充分に体感できる。
現在、一部の劇場で本作の4k版が公開されてると思うのだが、もうボチボチ上映終了するかも知れないので、この機会に劇場で本作も見てほしい。最初は難解かも知れないが、慣れれば徐々に引き込まれる。造形を楽しむのもいいかも知れない。

私は本作が、今現在で最もクローネンバーグの作品の中で一番好きである。
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