よしまる

尼僧物語のよしまるのレビュー・感想・評価

尼僧物語(1959年製作の映画)
3.8
 映画「オードリーヘプバーン」公開記念レビュー、その9回目は初鑑賞の作品で、医師の娘が家族とも恋人とも別れて修道院に入り尼僧になる修行を積むという、オードリー主演の「尼僧物語」。

 そう聞くと、世代的にはどうしても大映ドラマを思い出してしまう。
 「私、立派なシスターになりたいんです!」
 「コーチ…好きです!」みたいなw

 しかし残念ながらそうではない。宗教色も豊かに、尼僧になるための困難や葛藤を重厚な筆致で描くのは名匠フレッドジンネマン。
 レビュー済みの「わが命つきるとも」「地上より永遠に」など、社会や周囲に惑わされることなく良くも悪くも己の往く道をひたすらに突き進む強い意志を持った人物を描かせたら右に出る者はいないと思っている。
 そんなジンネマン監督が、ロマコメの印象の強いオードリーをどのように料理するのか非常に楽しみだったけれど、なるほど凛とした表情が芯の強さを感じさせ、ちょっとのことではめげない修行僧を見事に描いていた。

 「間違ったと思ったら恥じることなく戻っておいで」というスタンスの家族が、帰ってくるな!と言いがちな日本とはまず違っていて面白い。
 ただ、ボクが見落としてるのかもしれないけれど、最初の「なぜ尼僧になりたいのか」という描写があまり無くて、そのため戒律に苦しむたびに自分を戒め懺悔を繰り返すオードリーの切なさが時々ピンと来ないことがあった。
 そりゃ大変じゃろうと同情もしてしまいつつも、なんでそんなに頑張ってるのん?とも思ってしまう。

 結局のところ彼女の性格が果たして尼僧に向いていたのかどうかという話に帰着し、これ以上はネタバレるので避けておくけれど…。

 自分に厳しく、他人に優しくできる聖女のような心の持ち主ほどあらゆる局面で葛藤を強いられ、慚愧に耐えない気持ちにならざるを得なくなる。一方で、弱い自分を知りテキトーに事を運ぶような者こそ、厳しい戒律をものともせず飄々と振る舞える。じゃあ尼僧ってなんなん?

 これがカトリックに対する強烈な皮肉だったのかどうか、ボクにはわからない。問題提議のようにも見えるし、こうして服従や貧困の摂理を説いているようにも思えた。

 いずれにしてもオードリーが演じてこそ、このように胸にじんわりと染みていく深い味わいのある作品になり得た。抑揚のない暗い物語と心配された試写会に反して行列ができるほどの大ヒットとなったという逸話にも納得である。