真鍋新一

広域暴力 流血の縄張(しま)の真鍋新一のレビュー・感想・評価

3.8
時代の波に流され、日活もヤクザの抗争モノを作らざるを得なかった苦しみが感じられる一作。アキラの役どころは、すでに貫禄がついてしまった彼が演じるには少々若く、格が下すぎるのではないかと思ったが、名和宏や中丸忠雄といった他社の名役者を迎え入れたことによる試行錯誤なんだろう。見てるうちに気にならなくなるのは流石だ。

この映画のキモはスーツも和服もビシッと着こなす中丸忠雄と、なんでも着流すアキラ、この対照的な2人のコンビネーションだ。窮地に陥った組を守るために地道な金策に走る2人の奔走は、ヤクザ映画の本家・東映が得意とする前時代的な任侠映画にも、ひたすらに暴力的な実録ヤクザ路線にも見られないものだ。

そしてなにより、本流のヤクザ映画では絶対に有り得ないことなのが、アキラが親分や兄弟に対してではなく、惚れた女に対して指を詰めようとする場面である。本来は得意でないヤクザ映画をなんとか自分のものとして打ち出した覚悟の瞬間だった。

人の道に反した行いには自分自身も含めてキッチリと落とし前をつける。義理とか人情がそうさせるのではなく、どんなに汚い社会でもフェアプレーであろうとする心。これこそ日活が、アキラが、落ち目になろうとも守り通そうとしたダンディズムだ。必死に抑えていた自分の感情を、アキラからドスを受け取ったときに解放させた中丸忠雄の表情。一切視線をそらさないで逆手にドスを構えた彼の顔にはそれがあった。

東映の映画ならば小太りの中年エロ紳士という役回りが多い名和宏が、この映画だとダンディでシュッとした良い男に見える。これはやはり映画会社のカラーというものだろう。室内シーンの窓の外の風景が何故かすべてモノクロで統一されているというモダンな画面設計も見どころである。
真鍋新一

真鍋新一