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ドゥ・ザ・ライト・シングのnetfilmsのレビュー・感想・評価

ドゥ・ザ・ライト・シング(1989年製作の映画)
4.2
 ニューヨークのブルックリンにある黒人街、その日は朝からうだるような暑さで、ミスター・セニョール・ラブ・ダディ(サミュエル・L・ジャクソン)は人々に陽気な目覚めを促す。37度の熱帯夜から解放されたムーキー(スパイク・リー)は、横に寝ていた妹のジェイド(ジョイ・リー)にちょっかいを出しては、妹に激怒される。ムーキーの職場は数エーカー先にある「Sal's Pizza」と呼ばれるピザ屋さん。不機嫌なサル(ダニー・アイエロ)を店長に、兄のヴィト(リチャード・エドソン)と弟のピノ(ジョン・タトゥーロ)という2人の息子が店を盛り立てていた。有色人種のメジャーリーグ参加の道を切り開いた英雄ジャッキー・ロビンソンのユニフォームを着たムーキーは、配達の仕事をサボりながら、いかにも気だるい様子で街をうろつく。路上にはラジオ・ラヒーム(ビル・ナン)がラジカセぎんぎんに鳴らすPublic Enemyの『Fight The Power』が流れ、スマイリー(ロジャー・グーンヴァー・スミス)は1ドルでマルコムXやキング牧師のブロマイドを売り歩いていた。親友のバギン・アウト(ジャンカルロ・エスポジート)とがっちり握手し、マイ・ペースを崩さないムーキーの姿に、雇い主であるサルはいつもフラストレーションを抱えている。市長と呼ばれる老人も街をふらつき、街の喧噪を見守るマザー・シスターに声を掛ける。

 監督のスパイク・リー自身が主演も務めた物語は、ブルックリンの黒人街に住む人々の喧噪、「Sal's Pizza」に集まる人々の悲喜交々にフォーカスした青春群像劇である。今作は86年にクイーンズで起きた「ハワード・ビーチ事件」に着想を得ている。暑い夏の1日、各人にとって何でもない日常を切り取った前半部分は陽気なコメディの様相を呈する。妹も恋人も、赤子さえもろくに養えない主人公の姿は確かにろくでなしだが、今作に登場する人物たちはどこか不器用で、何かが破綻している。マイク・タイソンの悪口、だれたラジカセを鼓舞するような20本の乾電池、中年の恋とばらの花、真ん中に「Sal's Pizza」を置き、その周りをぐるっと円環状に連なるような物語は、だからこそラスト15分の暴発を生む。店を畳み、別の街に引っ越したい兄のヴィト、ただ生まれが遅かっただけで、兄からの理不尽な要求を受け入れなければならない弟のピノの病巣は、主人公同様に母性の欠如に他ならない。それは物語の着火点が、ラジカセの破壊を物語上の起点としながらも、一向に出て来ないサルの妻=母親のイメージを担うムーキーの妹ジェイドの来店の場面こそ強調しようとする。白人と黒人のほんの僅かなボタンのかけ違い、それは人種のるつぼのような街を美しくも醜悪にさせる。
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