Kuuta

フー・ファイターズ/バック・アンド・フォースのKuutaのレビュー・感想・評価

3.5
フジロック良かったなぁとまだ浸っている。

死の痛みを抱えながら激しく音を打ち鳴らした去年の追悼ライブから印象は変わり、テイラーの不在を取り込んでまた一つ凄みを増したような…。

フジロックでは、テイラーがフーファイ加入前にサポートをやっていたアラニス・モリセットが参加して、数日前に亡くなったシネイド・オコナーの曲を演奏した。フーファイのデビュー当時から「生き残ってきた」バンド仲間のWeezerとセッションした。消えていく人の思いを含めて演奏する。そんな姿勢を感じたライブだった。

Foo Fightersはカート・コバーンという巨大な空白を出発点にしている。今作タイトルの如く、空白を埋めるように、あるいは空白に引き戻されるように、行ったり来たりするデイヴ・グロールの人生を、このバンドは体現している。

デイヴ1人の宅録から始まったバンドは、彼に共鳴する仲間を加えながら、2000年代のアメリカのロックを代表する存在に成長していった。

内容はよくあるバンドの歴史を振り返るドキュメンタリーなので、興味がない方には全然面白くないと思うが、フーファイ結成から、7thアルバムでデイヴがニルヴァーナ時代に向き合うまで、という経過を追うことができる。

以下、印象的な箇所の抜粋と一部自分の感想。いろいろ雑です。

・ニルヴァーナ時代
ヒットにより客層が変わり、ジョックスも来るようになった。アイツらが俺らを一番馬鹿にしてたのに、という不思議。カートの死、どう受け止めていいのか分からなかった。ドラムを叩きたくなかった。

・1stアルバムFoo Fighters(1995)
空っぽの状態のデイヴ。何かをしたくて1週間で作った。当時はトム・ペティのサポートドラマーになりかけており、フーファイとして自分で歌うか、選択を迫られた。See what happensだと思った。

・メンバー集め、初期のライブ
ベースのネイト、ドラムのウィリアム。ニルヴァーナのサポートギターだったパットも参加。みんな元のバンドが未完成のままバラバラになった経験を持っていた。「過去の喪失を埋める集まりだけど、感傷的になるのはタブーだ」。

ライブではニルヴァーナファンが多く、かつてデイヴが作ったMarigoldばかり求められた。Big meでMTVの賞を取ったが、インタビューではニルヴァーナのことばかり聞かれた。「これはカートについての曲か?」と。違うバンドだから…と一つ一つ答えた。

ニルヴァーナ解散後に他のバンドを組んだこと、音楽を続けることを批判する声もあった。「でもバンドで自分を表現するのが俺自身だ」。元ニルヴァーナがこんな曲書くのかとも批判された。結論は"Fuck you, people”。バンドの未来はわからない状態だったが、ネイトはMy heroで行けると思った。

・2ndアルバムThe Colour and the Shape(1997)
プロデューサーのギルに相当しごかれた。特にドラムに物足りなさがあった。ウィリアムを別の街に置き去りにして、デイヴが一曲ずつ演奏し直し、他のメンバーもそれに合わせて再録した。結局、完成しかけていたアルバムを全部やり直した。「アルバムを完成させるための苦渋の選択だった」とデイヴ。ウィリアムは当然脱退。代わりのドラマーとして、テイラーが加わった。

2ndの最初のライブでパットが脱退を宣言。ツアーに飽き飽きしていた。代わりにフランツ・スタールが加わったが、うまくハマらずすぐ脱退。ネイトも辞めたいと言い出すなど、入れ替わりの激しい時期
(フランツはアルバム制作には関わっていないが、A320のギターは彼が弾いている)。

・3rdアルバムThere Is Nothing Left to Lose(1999)
デイヴ、ネイト、テイラーの3人編成でレコーディング。家を買って、自分たちのやりたいように曲を作った。あのアルバムの程よく力が抜けた感じは、レコーディング環境にも影響されていたのだろう。テイラーとの思い出の曲としてライブの定番となったAuroraも、3rdの収録曲。

ドラムを前に出したいテイラーに対し、フーファイはギターサウンドありきなんだというデイヴ。ギターを募集し、クリスが加入。大量にファンがやってきたオーディションで、唯一自然にデイヴが歌ったのがクリスのクリアな音だった。

ツアーは素晴らしかったが、刺激がなくなり酒を飲む、テイラーはオーバードーズで昏睡状態に。デイヴは「テイラーは弟のような存在だ。自分の力不足を感じた」。この辺は今見るともう…。

・4thアルバムOne by One(2002)
次のレコーディング。みんな準備ができていない。不穏な空気。アルバムは一旦出来上がったが内容は全然ダメ。デイヴは別バンドのサポートドラマーを始めるなど、解散を考え始めていた。

クリスが「この状況に気が狂いそうだ」と口火を切り、テイラーとデイヴの口論が始まる。テイラーはコーチェラが終わったらやめる、という話に。ところがこのライブがめちゃくちゃ上手くいき、もう一回録音してみようと、Time like theseを制作。勢いのまま7日間でアルバムを作り直した。「まだこのバンドは終わってない、100万ドルかけた最初のクソは捨てた」。

・5thアルバムIn Your Honor(2005)、6thアルバムEchoes, Silence, Patience & Grace(2007)
5thはアコースティック編成メインでツアー。パットが復帰。6thは5thのアコースティックと従来のロックを一緒にやるコンセプト。「バンドとして達成できることはやった」。2008年のウェンブリースタジアムでのライブ。チケットが売れまくった。この時代の「スタジアムロック」の一つの象徴だった。

・7thアルバムWasting Light(2011)
デイヴのガレージで作る原点回帰の作品。プロデューサーとしてNevermindのブッチ・ヴィグと20年ぶりに組んだ。元ニルヴァーナのクリスがベースで参加するI should have knownは、初めてカートの自殺をテーマにした。この曲に続き、アルバムを締めくくるWalkは「もう十分待ったと思う。もう一度歩き方を学んでいる」と歌う。
この辺はデイヴのセルフプロデュースの上手さでもあるし、このアルバム以降、過去のロックミュージシャンとのコラボが増えていくことを踏まえても、自身をロックの歴史の中に位置付けながらサバイブしていく姿勢が顕著になっていく。

鑑賞中は、どうしてもテイラー・ホーキンスの姿を追ってしまう自分がいた。テイラーはデイヴが自分の代わりにドラムを任せることが出来た、分身のような存在だ。ボーカルを任せた曲もあるし、代表曲Pretenderのサビも、原曲のキーが高すぎるのでライブではテイラーが歌い、デイヴはオク下でハモるのが定番だった(今はテイラーパートを客に歌わせている)。

特典映像に入っている、Bridge Burningのドラムの練習が印象的だった。デイヴが「こんなリズムはどうだ」と膝を叩くと、同じソファに座るテイラーが真似し、2人の動きが完全に重なっていく。このテイラー抜きでバンドを続けるなんて本当にすげーなと、改めて思う。
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