むっしゅたいやき

階級関係 -カフカ「アメリカ」より-のむっしゅたいやきのレビュー・感想・評価

3.8
アメリカ移民の実像。
ジャン=マリー・ストローブ&ダニエル・ユイレ。
フランツ・カフカの未完の長編を映画化した作品である。
また、この原作『失踪者』の第一部は『火夫』と云うタイトルで上梓されている。
カフカのかふ…、ふふっ、面白い。

本作は、救いの無い物語である。
ドイツからの移民である主人公の青年は、律儀・丁寧を絵に描いた様な人物であるが、その融通の効かなさ、頑固さもあり、アメリカ社会の偏見の狭間で挫折と衝突を繰り返しつつ、遂には行方知れずとなる。
それは冒頭に映される自由の女神とラストのハドソン川の長回しに象徴される様な、“アメリカ社会の移動・職業選択の自由さ”故の行方知れず、ではあるのだが、彼の行き先である当時のオクラホマは人種差別の激しい土地であり、自らを『ニグロ』と自称する彼の道程は余りにも暗い。

エンドクレジットが終わった後も真っ暗な画面に響く列車の音には、解放感と共にほろ苦い余韻が残る。
本作は一部原作からの省略が有るとは言え、暗喩と抜粋、比定の多いストローブ=ユイレの作品としては非常に理解し易い作品であろう。
表面的な「自由」とは裏腹に在る、窮屈で分断された階級社会に暗然とさせられる劇である。
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