井出

の・ようなものの井出のネタバレレビュー・内容・結末

の・ようなもの(1981年製作の映画)
4.4

このレビューはネタバレを含みます

これといった意味やメッセージ、本質がない、何かのようなもの。ただ素朴な日常を描いたもの。最近みたから繋げるとストレンジャーザンパラダイスと遠からずな気がする。落語家のようなものである主人公と、映画のようなものであるこの作品。
あえていうなら初めの女将さんと最後らへんの師匠の何気ない言葉がこの映画を表しているのではないか。
23歳の主人公は人生これから、まだ何も身につけてないが、何にでもなれる、だからこそ本当に落語家で良いのか、向いているのか。ものすごく不安定でありながら、ただその時々を、夢に、恋に、仲間に過ごす、必死で、全力で、自由で、軽やかで。それが何だか分からないけど面白い、あのショックで悔しい帰り道のように。かなり自分と重なったし、きっと監督も彼に感情移入したんじゃないかな。
舞台も非常に素朴。風俗、下町、団地。食と性と睡眠と、欲に素直に生きる人々の衣食住、生活。ぼくらは映画や客観的には捉えづらい、こういう生活を送っている。だとすれば、のようなものにこそ、ぼくらの本質があるんだな。滑稽だけど、何だか、面白い。
キャストもみんないい。尾藤イサオも、秋吉久美子も、円楽さんも、桂子師匠も、小堺さんも、ラビット関根も、でんでんも、出てくる人たち全てが何かいい。
撮り方も至って素朴のように見せている。音楽の使い方も素晴らしい。まあ素朴が見てられるまでになるには相当な力量な必要だってことだな。力量を得るまで努力しているにもかかわらず、初心を忘れていない感じが滲み出ている。これはなかなかできないよ。
「クラフトワーク」が出てきてびっくり。時代は80年リバイバルかな。
井出

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