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悲情城市のプレコップのレビュー・感想・評価

悲情城市(1989年製作の映画)
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台湾の深い悲しみの歴史

1945年8月15日から始まり、1949年、国民政府が台湾に移ったところで物語が終わる。この数年間だけでどれだけの深い悲しみと愛が生まれていたのか、それを一歩引いた目線から2時間半にまとめた台湾映画史上の傑作。

もちろん、鑑賞にはいくつかの歴史の知識を要する。とは言っても、中華民国の大まかな流れを知っていればそこまで理解が困難なわけではない。日清戦争と下関条約、二十一か条の要求、柳条湖事件、そして日中戦争という、日本が清や中華民国に対して何をしてきたか、を抑えていれば、今作で描かれる両国の狭間の台湾の位置関係が背景として浮かび上がる。

日本語は劇中幾度となく登場し、日本人も出てくる。文清は岩波文庫を愛読しているところなどから、戦後の台湾の日本と近い空気感を読み取れる。(元々統治していたので当然っちゃ当然だけど)

家族写真で始まり、家族写真で終わる極私的な家族をテーマとした一作だが、引いた目線のカメラの演出は台湾の人々のみならず、世界中が共感できる普遍性を持っている。「冬冬の夏休み」にも出てきた(?)診療所の玄関口も印象的だった。

台湾の自然、文化、そして歴史を体感できる一作だし、撮影直前に台湾の戒厳令が解除されたことや公開同年に天安門事件が発生するなど作品自体の歴史的意義の大きさを今なお維持し続けている。

DVDは特典に当時の台湾情勢や監督インタビューなどを収録していて充実の内容だが、日本ではこのDVDが高騰しており手に入りづらく、YouTubeにはアップされているものの日本語字幕付きのきちんとした形で観るのは困難なので、早いところソフト再発、リバイバル上映を希望!
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