あ

悲情城市のあのレビュー・感想・評価

悲情城市(1989年製作の映画)
5.0
普通の監督なら家族写真にナレーションで終わらせてしまいそうなところ、食卓にぽつんと取り残された父親で終わらすところに衝撃を受けました。

食卓、居間、廊下、病院の玄関、街の広場
そして、日常、228事件、文雄の死、文清たちの結婚式。同じ場所の違う時間を同じ画角で捉えることで、確実に台湾、仇分の街、そしてその中の林家という一家庭の歴史を積み上げていく手腕が本当に素晴らしかったです。
一度ある出来事が起こった場所を、また何事もなかったように同じカメラポジションで冷静に映し出された時、もう前の出来事を思い出さずにはいられなくなったり、そのあまりの呆気なさに流れる時間の残酷さを思い知ったりできるところ、そして極め付けが、息子たちを立て続けに失いつつも、何もなかったように机上に日常を送る父親が、寂しくなった食卓でぽつんと食事をするラストシーンで、台湾の苦悩に満ちつつも健気な戦後間も無くの歴史を一言で語り切って締める光景に帰結する。これ以上何も言えない映画です。完璧とはこのことかと思わされました。
あ