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エル・スールのsushiのレビュー・感想・評価

エル・スール(1982年製作の映画)
5.0
ひたすらに美しい。
本作において、映画とは遠く離れた別世界の音と光を覗き見ることであると定義されていた。
父親の部屋を覗き見ること、彼が遠くの方で鳴らす鉄砲の音、寝ている時に聞こえてくる両親の会話、父親が部屋で響かせる杖の音、そして何よりラストのグランドホテルでの結婚式。部屋のドアに白い布がかかっていて、カメラが上昇していって中が見えるっていうショットだったけど、このカメラの動きは映画館の入り口の前でも反復されていた(このショットの後に上映中の映画の場面が続く)。
主人公がブランコに乗りながら父親の部屋の窓を見る場面では、まさに別世界としての父親の部屋が現れていた。それと同時に揺れるブランコの動きは、振り子の運動、さらに映画冒頭の場面において主人公の顔を伝う涙や、彼女と父親のダンスの動きにもつながる。
家の前の“国境"で画面奥に向かっていく(またはこちらに来る)動作は、タルコフスキーの『ノスタルジア』において画面奥に向かう動作が過去へ戻っていくことを意味するのを思い出した。
それまでは黄色と青色が主調だったんだけど、途中から赤色が画面に現れるのも印象的だった。赤色は愛や血(その後の惨劇)、そして冷たい北部と対照的な南部の象徴でもある。
どのシーンも好きなんだけど、父親が道端で煙草の火を借りる場面と、ラストのグランドホテルでの会話が特に好き。前者は主人公にとって父親の神性が完全に消滅した決定的な場面なのに、さりげなく撮られていてすごい切なくなる。
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