近本光司

エル・スールの近本光司のレビュー・感想・評価

エル・スール(1982年製作の映画)
4.0
この映画に「南(sur)」がいちどとして映らないこと、これは意図されたものだと思っていたら、この話には続きが用意されていて、エリセはエストレリャが「南」に逢着したあとの物語も撮りたかったらしい。しかし『エル・スール』にとっての「南」が想像上の場所でしかないこと、過去に神話が生起した土地としか描かれないことが、この映画に贅沢なメランコリーを与えている。寒ざむしい空のもとにひっそりと建つ「かもめの家」のあの感じ。そして「グラン・ホテル」のカフェでの父との最期の会話、その隣で催されるいたって平凡な結婚式の音楽。あれほどもの哀しくて美しい記憶を宿すという詩的なことよ…。