木蘭

エル・スールの木蘭のレビュー・感想・評価

エル・スール(1982年製作の映画)
3.5
 スペイン内戦で生じた社会の傷を、少女が父親を理解しようとする姿から描くビクトル・エリセ監督の長編2作目。
 名作の呼び声高い長編処女作『ミツバチのささやき』と同時に鑑賞。

 内戦によって失われた別の人生や愛、傷付いた大人達の社会を少女の目から見つめるというプロット、過去の人生と現在を繋げる触媒としての手紙、そして映画への愛・・・。
 内容は前作とほぼ同じながら、フランコ政権末期に作られた前作がイメージと隠喩で構成されたアート映画だったのに対して、民主化後に作られた作品で在る事からか、より具体的な劇映画になっているし、流石に2作目で監督の映画作りが巧みになったのか、検閲を気にしなくても良くなったからか、原作小説があるからなのか、映画としての完成度は上がっているし、見やすい。
 その分、前作の様な魔法の様な瞬間を期待すると、一寸違う。


 鑑賞後に知って驚いたのは、ヒロインが父親の生まれ育った南部に行き、自分の異母兄に会うという原作小説の後半が、プロデューサーの意向でバッサリとカット(未撮影)されているという事。
 
 共和党員として左派政権を支持し敗戦後は投獄もされたインテリの父親と、フランコ将軍の反乱軍を支持した右派(多分、地主層)の父親との対立・・・諦めなければいけなかった愛や人生・・・といった、社会の負った傷の救済が描かれたのかも知れないが・・・。
 批評家には好評でも、監督は未完成で不完全な作品と思っているというのは分かる。

 しかしこのお父さんさぁ・・・前作のヒロインのお母さんは手紙を焼いて何かと決別していたのに対して・・・過去と決別出来ずに潰れていくのがね・・・インテリのお坊ちゃんなんだろうけど、男として駄目じゃん。面倒見なくちゃいけない家族もいるのにさぁ・・・と思いました。
木蘭

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