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エル・スールのkirika75のレビュー・感想・評価

エル・スール(1982年製作の映画)
4.0
ビクトル・エリセ監督31年ぶりの新作長編公開、と聞いて興味はわくけど映画館に行く時間が取れない中、そうは言っても第一作の「ミツバチのささやき」しか観てないな、と思い第二作の本作を鑑賞。

50年代のスペイン北部の田舎町。
優しく知的だが風変わりな父と、母と家政婦と暮らす少女・エストレリャの物語。
少女の目を通して描かれる大人たちの世界、内戦とフランコ独裁政権が影を落とす社会、と「ミツバチのささやき」と通底する作品。
それでいて、主人公の年齢が上なこともあり、より現実的で悲劇の色彩の濃い作品となっている。

全体を通して、とてもよい。
かもめの風見鶏のある、他の人家から離れた大きな家、乾燥した並木道、古風で豪華な感じのする映画館、カフェで書く秘密の手紙、愛に破れた父と、その父への愛に破れた母、二人を見つめる娘の視線…。
これが映画だなあ、と思わせてくれる。

主演のオメロ・アントヌッティがイタリア人俳優で、スペイン語を話せないことを知ってびっくり。吹き替えだと気づかなかったし、吹き替え前提で彼に主役を打診した監督の発想にも驚いた。

そしてこの映画、元々の構想ではエストレリャが南に行ってからの姿も描かれ、倍の時間の作品になるはずだったのに、資金難により彼女が南へ旅立つところで終わり、90分ちょっとの作品になったというのも驚き。
最初からこうするつもりだったかのように自然で完成度が高く、時間が短いのもよかった。
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