朔

エル・スールの朔のレビュー・感想・評価

エル・スール(1982年製作の映画)
4.0
光と影の効果、絵画的な構図、相も変わらないそれらが、おそらくはより意識的に、より濃く、鮮明に、描かれている。
どこかざらついたような質感が、グロテスクなまでに人間のリアリティを強調する。
静かな画面にこそりと蠢く人間のエゴイズムと、少女がそろりと強いられる残酷なまでのその成長に、そっと息が詰まる。
今作はかなり説明的で(情勢からの解放、なのだろうか)、わかりやすく、ゆえになおさら、フィクションとしては昇華しきれない何かが明確に存在するような気がして、苦しい。他人事にはなりきらない、何か。
自分は父にとっての娘だから、娘の、本作で言うエストレリャの気持ちは、かなり理解できるつもりだ。一方で、それなりに歳を重ねて、大人にもなったから、父の、本作で言うアグスティンの愛だって、理解できてしまうんだ。(時代も地域も、文化や環境が何もかも違うので、本当のところはわかっていないのかもしれないけれど、少なくとも根幹の部分は、という話)
逃げたくなった。両手を握り締めながら、見た。見終わって、ちいさく、息をした。
続きも見たい、続きが見たい。救われない、救われたい。
朔