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エル・スールのericoのレビュー・感想・評価

エル・スール(1982年製作の映画)
3.5
エル・スールとはスペイン語で「南」、かつて主人公の父親が捨てた故郷のことだ。暗闇に淡く青い光が差し、徐々に明けていく朝のなか、父親が出て行ったことを主人公が知る冒頭のシーンの美しさが、悲しく印象に残る。
スペイン内戦に纏わる父と祖父との不和や、父の心の中に存在する母ではない女性の存在を通し、大好きだった父親との関係にだんだんと疑念が生じていく。満ちていく不穏な空気、隔たっていく距離。
親も弱く不完全な存在だと気付くことは、誰もが大人になる過程で経験することなのだろうけれど、彼女の父親はそのことと向き合うことが出来なかった。ベッドの下に隠れた娘の存在に気が付きながら、声をかけることの出来ない父親だった。
スペイン北部の荒漠な景色と、光と影の柔らかな対比。時にはっとさせられる赤(毛糸、自転車)は、血縁の象徴なのだろうか。
続編の制作が断念されたため、事実上未完ということになるのかも知れないけれど、十分良い作品ですよ。
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