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森繁よ何処へ行くのニューランドのレビュー・感想・評価

森繁よ何処へ行く(1956年製作の映画)
3.0
✔『森繁よ何処へゆく』及び (3.0p)『奥様は大学生』(3.0p)▶️▶️

 シネマヴェーラは、出来て暫くは行くこともなかったが、半年経った頃から、やはりプログラムは魅力的と気づき、シリーズ毎に2割程度は観て置ければと思う様になった。面白い作品だけ相伴出来れば感覚で、映画史全制覇、何でも見尽くす周囲には着いてけぬが。
 香川京子は早くにフリーになった事もあり、透明なキャラクターも珍重され、当時の汎ゆる名匠に起用された感もあるが、そうでない作品にも結構でてた様だ。
 当時の東京映画のあるイメージは、川島も加入前で、汎ゆる時代風潮と社会関係を、あくまで濁りないクリアな描写·造型で、変にどっかに嵌まらず作り上げたパッチワークの様だ。実際、タイトルに森繁と入った本作は、時代時代を反映した、社会との隙間を感じつつも自分の信念信条を守り続け、年代によってまるで違って見える、もそれぞれに存分にキャラを固めた、森繁のワンマンショーと見える(実年齢40代前半で、若気の時代から老境まで)。が、内実はより侘びしく穏やかな作品だ。それに対する映画スタイルは、バーやレストラン·屋台·江ノ島の見晴らしいい家でも、等しくクリアに戦後荒々しい時代のアクションや、娘を送り出す小津風心境のリズムでも、濁りや闇なく、俯瞰め移動もフォローも、どんでんも90°変も、リアクションカットも積んでゆく、と実に淀みない。何かをなぞっただけのもの足らなさもあるが、終盤の女掏摸岡田茉莉子の張り出し加えや、フォード+(当時未紹介の)フェリーニ風シュール締めはいい。杉·淡路·香川(妻↦旅同行↦成人した娘)のパート毎に、それぞれとの別れの沈痛までを、セオリー通りにしっくり丁寧に組み立ててる。妻を事故で失ってよりは、うちを空ける事の多いトンネル掘りのライフワークも控え、つねに娘の成長第一に、酒乱癖もある飲酒も完全に控えての、半生のメリハリあり、和やか味わいの記述映画。既に述べだが、ラストエピソードのシュール感がかなり作品を救ってる。
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 もう一本の杉江演出の『奥様は~』は、俯瞰めや横へや前への移動、都度ロー·縦図の切返し·適切角度サイズ取りの切替え·締めたては、小気味よく着実で、学業+バイト+家庭、全てに半端を感じ中退考えてくる大学生妻へ、夫の「君の真剣に学んでく姿が新鮮と成長の感動を周りに」に励まされ持ち直す迄を、常に重さに嵌るを避けさせてる。戦後の婦人史研究勃興機運の中の、男女家庭分担を平等派、一心同体で夫全面·支え控える妻派の対峙が、未だフレッシュに論議にもなった頃を、活き活きと描き、好感充分でフレッシュ度もいい(実際当時の東宝新人群顔出し尽きずの前に、中堅になりかけてた香川も印象薄れる)。ま、メイコナレーションの投げかける程は作品は深められもせず、やはり感覚いい·時代パッチワークに留まってるのは、致し方ないのか。
 それにしても2本とも、90分にかなり届かない短尺なのに、実に小気味よく展開が進み、その効率と同時手抜きなさの感じさせは大したもので、大作風にも見栄えで負けないプラグラム·ピクチャーはこうでなくちゃという見本になり得てる。
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