Siesta

さくらももこワールド ちびまる子ちゃん わたしの好きな歌のSiestaのネタバレレビュー・内容・結末

4.5

このレビューはネタバレを含みます

まずFilmarksでの異様な高評価で作品を知ったのが数年前 当時、円盤化されていない幻の作品であり、廃盤となっているビデオテープをウン万円払って買うか、特集上映、WOWOWの奇跡的な放送タイミングを狙うくらいしか見る方法がなかった さくらももこ先生が亡くなられたタイミングでのWOWOWでの放送のためだけにWOWOWに加入しようかと思ったくらい そして、そこまで見たいと思わせたのがミュージカルパートにあまりの衝撃を受けたから ドラッギーなセル画の躍動感に、国民的アニメでやるにはあまりに前衛的なその映像は、正直、どんなハリウッド超大作よりも度肝を抜かれて高揚するものだった 自分は、恥ずかしながら違法アップロードされたミュージカルパートのみをいくつか見て、大瀧詠一、細野晴臣、たま、笠置シヅ子と、日本の往年のポップスにドラッギーなアニメーションという組み合わせに度肝を抜かれた 自分は結局、大金を払ってまで見ることはなかったけれど、そんな自分の中で“死ぬまでには絶対見たい1本”であったから、今作が数ヶ月前にBlu-rayリリース、ひいてはNetflixで見られるなんて、夢のような話だった TSUTAYAで今作のソフトを見た時は思わず声が出た ただ、あまりにとっておいた一本ゆえに気軽に見ることができずにいて、タイミングを待っていたところ、朝ドラで笠置シヅ子の買い物ブギが流れ、おっさん!おっさん!おっさん!という歌詞を耳にして、これは見るタイミングが来たかと静かに思っていた そして、まさかのTARAKOさんのご逝去 おそらく、自分の人生の中でこれほど見るべきタイミングというのは訪れないだろうと思い、やっとのことで観賞を果たした
まず、“めんこい”という感想になる このセル画の日常の可愛さ 少し是枝作品とも通じる?とも 1人で静岡まで行くの凄えなぁとか思っちゃったけど、東京からなのかな? ヒデじいの運転で花輪くんと静岡へ向かうそのドラッギーな道中 大瀧詠一の「1969年のドラッグレース」、これはもう見てもらうしかない 湯浅政明の才能が爆発している 色使い、現実からの飛躍 日常に潜むパラレルへの飛躍がまる子というフィルターによって成立してしまうという今作の視点はやはりめちゃくちゃ鋭いと思う なんなら、実はミツバチのささやきと似たようなことしてるんじゃないかとさえ思う
そして、お姉さんとの出会い このお姉さんとの関係と「めんこい仔馬」が重ね合わせられているというあたりも細かく丁寧で映画的な構成 このお姉さんも、最初はオーバーオールのボーイッシュさ、ボーダーのセーターのカジュアルさ、デートのお化粧した姿、白無垢姿と短時間の中でお姉さんの変化の描写が本当に素晴らしい 細野晴臣「はらいそ」のトロピカルな陶酔とお姉さんがお姫様のストーリー 個人的に最も痺れるのは実はたまの「星を食べる」のシーン 憧れのお姉さんと水族館に出かける お姉さんの恋人、友蔵と共に 魚よりも人魚のように美しいお姉さん そんなお姉さんがどこかに消えてしまいそうだと言うのだよ そこからの2人だけの世界、めちゃくちゃホラーで陰鬱で退廃的な空気感、ファンタジーと狂気が入り混じったシュールな世界観の「星を食べる」 そっと挿し込まれる“僕は君の首をそっと絞めたくなる”という原曲の歌詞をそのまま使っている 子ども向け国民的大衆アニメでこれはヤバ過ぎるだろ 稀にあるアニメで一線超えたろって瞬間の一つ オトナ帝国の“ずるいぞ”、トイストーリー3での溶鉱炉で手を繋ぐシーン、ふしぎの国のアリスのヤングオイスターズのところとか もうこの時点でまる子はこの先に来る未来を予期していて、だからこそそのダークな選曲なんだと思う しかも“相当散らかっている”と 邪な気持ち、この時のまる子には脳内にはあったのかなぁとか
やっぱり、最後の展開は旧時代的過ぎるのも分かるけど、この辺からもめちゃくちゃ複雑な味わいがあるんだよな 結婚で北海道へ行くのか、東京で夢を追うのか まる子は推すんだよな、お兄さんは1人しかいないと でも、これは自分のせいで、自分がけしかけたせいで結婚を逃すかもしれないとまる子は思ったのかもしれないし でも、まる子はお姉さんが離れていってしまう悲しさという以外の複雑さもあるような気がしていて あの、まる子とか、子どもって、分かっていて道化を演じる瞬間あるよなと まる子は作者そのままの名前である通り、作者の幼少期の投影であり、絵を描くことよりも結婚を選ぶというのはこれまたもう一つの作者の投影なのでは?と そして、それでもやっぱりあの感動的なジャングルジム 白無垢姿のお姉さんを見送るべく学校を抜け出し、どうしたらお姉さんが見えるか頑張って、必死にジャングルジムからバンザーイって、まる子、めんこいが過ぎるだろ お姉さんの未来の肯定であり、決別でもあり 岩井俊二のラブレターの“お元気ですか?”とも重なるけど、マジでそれしかないセリフというか バンザーイという言葉で肯定“してあげる”というか そして、お別れをしても、その想いは永遠だと ひとときは永遠なのだという人生の深い示唆 お姉さんの選択こそが一番正しいという映画ではないと思う あのバンザーイは結構、深いと思うんだよな お姉さんの絵が入選して、というあたりはサービスかなとも 大衆作品としてはこのくらいの救いは必要かなと
大瀧詠一、細野晴臣、たまの凄まじさもそうだけど、やっぱり何回見ても花輪くんの奇天烈なアジアンテイスト、そして面白すぎカッコよすぎなはまじの買い物ブギ おっさんの連呼にあのおばさん、インパクトあり過ぎ 他にもヒロシとまる子のお風呂の極楽感、ビートルズオマージュのメンズたちのコンサートの妄想と楽しいシーンもある ミュージカルシーンの凄まじさに加えて、さくらももこの表と裏を感じるストーリーとメッセージ まさにさくらももこワールド これはカリオストロ、ビューティフルドリーマー、オトナ帝国のように評価されてもいいのでなかろうか?
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