このレビューはネタバレを含みます
ふたりのミニヴァー夫人が、共に凛としていて素敵。
防空壕の中で、子供の寝顔を見ながら珈琲を飲んで、穏やかに会話する夫婦の姿がとにかく印象的だった。
会話のスピードもゆったりとして切迫感を感じさせないように努めているのに、会話と会話の間に流れる沈黙時のこわばった顔。
きっと自分もあんな風な振る舞いをするだろうなぁと想像しながら見ていた。
もう一つ、印象的だったのが、クレムが船でダンケルクへ向かったくだり。
ダイナモ作戦をチャーチルや政治家、または軍人の視点で見たことはあったけれど、民間船に乗った人間の視点で見たことはなかったから、カジュアルな誘拐みたいな形で連れていかれる様子を見て、こんな感じだった可能性があるのかと軽い衝撃を受けた。
ラストの司祭の演説は、戦意高揚として凄まじかったですね。
これは、現代人からすると拒否反応を示す人も多そう。
ただ、プロパガンダ映画として名を馳せている作品ではあるものの、声高に叫んだりするのはこの人ぐらいで、むしろ地味な作品だと感じたのが正直なところ。
ミニヴァー家の誰かやベルドン夫人ではなく、キャロルが亡くなってしまったのは驚いたのだけど、無垢な雰囲気のバラード駅長と合わせて、軍人から程遠い人物が亡くなることがプロパガンダの肝になるわけですから、よくよく考えりゃ当然の人選なんですよね。。
キャロルを失ったヴィンや、ドイツ軍パイロットと遭遇したミニヴァー夫人が、ドラマ的に泣いたり喚いたりせず、感情を抑えて描かれているのが非常にリアルだった。
こうやって、民間人までをも犠牲にするドイツ軍への反抗心を高め、静かに団結心を醸成したのちに、ラストの司祭の演説へ繋げていくのは、本当にうまい運び方だなぁ。
庶民を見下していたベルドン夫人の心が溶かされていく様子……特にバラードさんが優勝したシーンと、司祭の演説の際にヴィンが夫人に寄り添ったシーンには感動も覚えたけれど、
「もっと大きな敵がいる時に、近いところでいがみ合ってる場合ではない。(ついでに消費活動で個人主義に走ってる場合でもない)一致団結せよ。」
というメッセージが本質でしょうから、非常に複雑なものです。
旦那も息子もいない時に、ドイツ軍に出くわしてしまったミニヴァー夫人の孤独感。
そこから二人とも戻ってきた時は、当たり前の日常の大切さが心に沁みた。
少なくともどちらかとはもう会えないんじゃないかと思いながら見てたから。
大仕事のあとのハムエッグって良いな。