三四郎

ミニヴァー夫人の三四郎のレビュー・感想・評価

ミニヴァー夫人(1942年製作の映画)
4.8
さすが名匠ウィリアム・ワイラー監督…と唸らされる。

非常によくできた善悪二元論の戦意高揚プロパガンダ映画。
この映画の舞台はイギリスだが、当時のアメリカ社会の問題点を指摘し、銃後の人々のあるべき姿をアメリカ国民に示した作品とも言えるだろう。

敵=ドイツ、正義=イギリス・アメリカ(連合国)という図式が成り立ち「平安を脅かす敵であり悪であるドイツから、自由と平和を守れ」と訴えている。

長男の結婚相手はドイツ空軍の機銃掃射で撃たれて亡くなるが、映画は終盤に向かうにつれて「罪のない子供、女性、老人が犠牲になるのは何故か」と、観客すなわち“アメリカ国民“に強く訴えかけ「さあ立ち上がれ!愛する祖国、愛する人を守るために!」と鼓舞する。

戦時中のアメリカでは、女性労働力人口の75%が既婚者であり、90%が母親だった。しかし、母親が働きに出ている間、子供たちの面倒を見る人がいないので、当時、ティーンエイジャーの非行、犯罪、性病、妊娠などが増加した。
つまり、グリア・ガースン演じるミニヴァー夫人は、「主婦は家庭を守るべき」という銃後の女性のあるべき姿を示していると言えるだろう。

母親が働く一方、ティーンエイジャーも自ら進んで労働力となったので、高校の在籍者数が減少していったのも事実である。この問題に対して政府や識者たちは次代の共和国を担う若者の学業がおろそかになることを恐れ、盛んに『学校へ帰れ』と指導した。
この映画においては、オックスフォード大学に通うミニヴァー家の長男が帰省した際、
「人生の目的は学ぶこと。僕の短い生のある限り学ぶべきことは山ほどある。科学や哲学や社会学などね」
と誇らしげに両親に語る。
考え過ぎかもしれないが、『ティーンエイジャーの仕事は勉学に励むことである』という、彼らの本来あるべき姿を長男の言葉を借りて示しているとは言えないだろうか。

さらに長男は、一年間大学で学んだことにより、社会的意識が高まったと両親に熱く語り、最後に一言「同胞は平等だよ」と言う。もちろん映画の中におけるこの言葉は「イギリスの階級差別」に言及したものと考えられるが、戦時中のアメリカ社会、軍隊内における「黒人差別」について言及し、黒人も同じアメリカ国民であり、平等な待遇を受けなければならないというメッセージだったとしたらなかなかどうして深い。

ストーリーとは全然関係ないが、母親役のグリア・ガースンと長男役のリチャード・ネイがなんだか仲良さげというか親密そうだと思いながら観ていて、鑑賞後に調べたら二人はこの映画の後、結婚してた笑
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