近本光司

お茶と同情の近本光司のレビュー・感想・評価

お茶と同情(1956年製作の映画)
4.5
十年後の同窓会で再会を喜ぶ男たちのあいだを灰色のスーツを着こなした男が横切ってゆく。周りの男たちはおい、あいつじゃないか、よくのこのこと来れるよなと囁きあうが、彼は気にもとめない様子。わたしたちははじめに示された十年後の彼の堂々とした歩き姿を、作中で幾度となく思い返すことになる。同年代の男の子たちからシスターボーイと揶揄され、社会通念から宛てがわれる男らしさの呪縛に苦しむ十八歳の青年(ジョン・カー)の実存に、おなじくマスキュリニティからの抑圧を受ける下宿先の妻(デボラ・カー)が寄り添う。二人のあいだに成立する共感と恋心。ドラマをつうじて揺れ動く感情の密度があまりに高くていちいち感動を憶える。あの同級生と歩き方の練習をするところに爆笑。結末の小説家のくだりはちょっと冗長。あの手紙をひらく直前で終わっていたら、まごうことのないマスターピースだろうが、そんなことは五十年代のハリウッドメロドラマとしてのコードが許さない。デボラ・カーに負けず劣らず、(はじめて観た)ジョン・カーくんがいい!