明石です

白い花びらの明石ですのレビュー・感想・評価

白い花びら(1998年製作の映画)
4.8
農業を営み「子供のように幸せに」暮らす夫婦の幸福が、羊の顔をしてやってきた性欲お化けの都会風の男に壊される。その男の正体はヤ〇ザ者だが、妻がそうとは知らず彼に惚れ、ヤ〇ザの情婦に身を堕としてしまう。救いのない鬱々としたストーリーをサイレント映画で表現したアキ·カウリスマキ中後期の作品。

農民としての平凡な幸せしか知らなかった、それはそれで幸せな田舎の妻が、都内の男を知り、化粧を覚えて雑誌を読み耽り、ご飯はレトルトしか出さず、田舎臭い夫とは別のベッドで寝るようになる。ロックンロールにのって描かれる一覧の描写はやや戯画的なきらいはあるにせよ、この時代に流行ったフェミニズム運動、ライオットガールズあたりを意識しているようで、これはこれで当世風なのかなと思えてしまう。

サイレント映画で台詞がない分、普段よりもカリカチュアライズされたストーリーが理解を助けてくれ、台詞がある通常のカウリスマキ映画よりも格段に理解しやすい笑。そして、見よう見真似で身につけた(という設定の)カティ·オウティネンのピエロみたいな厚化粧がかえって昔のサイレント映画のように大仰なのも皮肉が効いてて好き。男が女の体に触れた瞬間、画面は自然の風景に移り、川の水が勢いよく流れ、花びらが散る。そしてホテルでは、同様のシーンの直後にすぐ朝が来て、ボーイがモーニングサービスを運んでくる笑。ホテルヘイズコード時代の典型的な性表現ですね。

総評としては、過去の映画へのリスペクトはあるにせよ、わざわざ技術を退行させることで、そのリスペクトを示す必要はないかなと思った。昔、スピルバーグの『シンドラーのリスト』を観た時にも同じ感想を持った記憶がある。過去の方法論を現代の技術に落とし込むことで弁証法的に映画を面白くしていくのが映画人の務めなのではないかと不詳ワタクシは僭越ながら思っていたりする。

ただ、カウリスマキ映画はもともと台詞が少ないので、ほぼゼロがゼロになってもあまり差は感じられないのは本音ではある笑。ヒロインのカティ·オウティネンも、言葉数は少ないながら表情のクローズアップで魅せる演技が売りなわけで、むしろ本作の方が生き生きして見えるようにさえ思える。モノクロのサイレントという方法論の退行(と私には思える)を全面的に推せるほどではないにせよ、ストーリーのわかりやすさも手伝って、カウリスマキ作品ではトップクラスの面白さ(素直に「面白い!」と言えるかどうかの意味での面白さ笑)だと思う。

妻を奪われた夫が、斧を研いでバイクにまたがり復讐に出かける終盤のシーンは死ぬほど格好いい。アキ監督映画常連の大男サカリ·クオスマネン、バリトンの声を封印して表情で魅せる演技がこれまた渋いこと。
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