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男はつらいよ 寅次郎夢枕のケーティーのレビュー・感想・評価

男はつらいよ 寅次郎夢枕(1972年製作の映画)
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中盤の瞬発力は弱いが、終盤でみせる八千草薫さんのシーンだけでこの映画を観てよかったと思わせる作品。


前半は寅の結婚騒動(これが後半の伏線となる)から始まる。これは一歩間違うとしんみりしすぎる終わりになるのだが、そこを源公が鐘を鳴らすシーンであくまでもこの作品は喜劇ですよと見せているのが、うまい。
続いて、田中絹代さん演じる旧家の奥様と話す旅のシーンがある。ここは風情のあるいいシーン。田中絹代さんの演技が流石の一言に尽きる。また、夕暮れの山での墓参りの絵もいい。

これが終わると、いよいよ本編に入る。しかし、ここからの中盤は、正直なところ、八千草薫さんがヒロインなので寅との絡みが上手くつくれず、喜劇としてはそこがつらい。その分、岡倉先生などを登場させてコメディシーンはそっちに任せている。もっとも、八千草さん演じるお千代が寅さんと出会う暖簾のシーンなどは面白いし、後半の出てくる出てくるニュースが全部親子ネタで、寅たちが四苦八苦するシーンも面白い。後者も一歩間違えば不謹慎ネタなのだが、そこをカバーするのは、やはり前半でこれはあくまでも喜劇ですよと示しているからだろう。

さて中盤の喜劇の瞬発力こそ弱いものの、ところがどっこい、終盤は八千草薫さん、この人のためにつくったシーンがあり、素晴らしい。ああ、このために、このシーンで涙するための映画を観てきたんだなと気づく。落語的な掛合いの面白さなら、やはり浅丘ルリ子さんや大地喜和子さんなどのマドンナに軍配が上がるが、これはこれでその終盤のシーンで成立している一作。この後も似たパターンは何作かつくられてるが、何か不思議な八千草さんにしか出せない魅力があるのである。(同じパターンでも、女優さんによってマドンナの出す魅力を変えている、それこそが山田監督の技能とも言えるのかもしれないが)