takanoひねもすのたり

二十世紀少年読本のtakanoひねもすのたりのレビュー・感想・評価

二十世紀少年読本(1989年製作の映画)
3.4
続けて林海象監督作。

昭和30〜50年代辺り。
三日月大サーカス団の幼い兄弟・仁太と渡は、サーカスの花形空中ブランコ乗りに憧れ、スターになることを夢見ていたが、ある日練習中に渡を庇って足を負傷した仁太。
その傷は大人になっても治ることはなく、仁太(三上博史)はサーカス団から出奔。
以降、テキ屋の組に拾われ口八丁手八丁の香具師として仕事に励んでいた。
一方三日月サーカス団は団長が死亡、団員も抜けてしまい残った数名で維持しようと渡は奮闘していたが事件が起きてしまう。

三上博史さんの滑舌の良さ。
香具師の売り文句から親分、兄弟の名のりの長口上を朗々と流れるように語る。
仁太の兄貴分にヒロシ(佐野史郎)
前作のオマージュで今作も卵を食べてた 笑

三上博史さんの華のあることよ……。
モノクロでの際立つ色気。
どの角度から写ってもアップでも引きでも映える。
崩れた(堕落)した雰囲気が似合うが仁太のそれは(俺は嘘の天才=今でもサーカスを演じている/エンターテナーだ)というプライドがあり、クズに染まりきっていない部分が奥底に隠れている。
しかし、おもちゃ(佳村萌)にそれを見抜かれ、また仁太と同様に悲しい嘘で自分を周囲を偽ってきた彼女と同調し合う。
ここから悲劇へまっしぐら。

「死んじゃおっか」
無邪気なトーンで明るく言うおもちゃ。
雨降りの山中、少し遠くに追っての焚火がちらちら揺れる。
躊躇いなくその選択を受け入れる仁太。

OPのタップダンスから始まるサーカス団の歌、曲芸が次々と展開するシークエンスに一気に引き込まれる。

観客を沸かせ、笑わせ、幕が降りる。幕が上がる時の高揚感と幕が降りた後の寂しさ。
華やかだけど裏側の厳しさ、血の繋がりではなくサーカス芸人達の集団(疑似家族)という間柄に漂う絆や優しさ、そしてドライさ。

渡の伝言は仁太に伝わり、それは兄弟という世界でただひとりの肉親という繋がりと、互いを思う気持ちが、仁太の最期に魂を導く役割を果たす。

団長・親方に気に入られ才能もありながら二度も足を踏み外す仁太の人生。
短く散ってしまったけれど、本当は帰りたがっていたサーカスのあの天幕の元へ最期はたどり着けたのだから幸福な結末なのかも知れない。