ひれんじゃく

2001年宇宙の旅のひれんじゃくのレビュー・感想・評価

2001年宇宙の旅(1968年製作の映画)
4.5
 再鑑賞。前に見た時は高校生とかだった気がする。とにかくさっぱりわからず「だめだ…わたしはキューブリックの発する電波を受け止められるだけの高感度のアンテナを備えていない…」と挫折したいい思い出。それから数年後。永遠回帰だの三段の変化だのといったキーワードに釣られてもう一度トライした。何もわからなかった。やはり私のアンテナの性能ではどうもキューブリック波を捕まえ損ねてしまうらしい。

 ただ前に感動した記憶がある箇所で全く同じように声出して唸ってたからとんでもない人だなあ、ということだけはわかる。「知能を得た猿が争いを知り、仲間を撲殺したあと放り投げた骨を追うと、そのまま宇宙を飛ぶシャトルに繋がる」なんてどんな頭してたら思いつくんだ本当。意味がわからん。言葉が足りない。作品のテーマ、あのオチ、何もわからなくてもこのシーンが素晴らしいことだけは理解できる。個人的にこの映画はあのシーンのためにある。「モノリスが与えた知恵は、肉食動物に怯えながら寄り添いあって暮らしていた人類を一気に高みへと押し上げるものだった。けれども恩恵だけではなく災厄ももたらした」「人間は仲間を撲殺した猿から進化し、同じように仲間を殺し合いながら宇宙へと飛び出すまでの力を手にした」私的にはこんなメッセージがあの一連のシーンに詰まっているような気がして頭を掻きむしりたくなる。すご。多分もっと違った意味合いも込められてるだろうし、とにかく投げた骨が宇宙船に重なるなんて映像を撮っただけでもうこの作品に意味があるように思ってしまう、それくらい好きなくだり。
モノリスに触った後結局どうなったのかがぼやかされてるのもいい。私は人類に知恵を与えたのでは?みたいに思ってるけどそうじゃないかもしれない。月に鎮座してたモノリスと邂逅を果たした人たちも安否不明だし。モノリスが何をもたらすものなのかが全くわからない(どこかで明示されていたら単に私が見落としただけですが)のがいいなと思った。それでこそ数百万年前から地球にあった謎の石碑ですよ。

 そして今見るとHALがめちゃいいな。音声認識、画像認識ができてきちんと会話を成立させることができる!すごい!唇を読めるということはどの口の動かし方をしたらなんの音が発せられてその音はどの単語で何の意味を持っているのかまで理解出来ているということ!すごい!全部すごい!という感じ。船の操作を一手に担っていて人間よりも優れているくせにメチャクチャ死にたくないと足掻くし最後はお歌を歌って子供のように眠りにつくのがいやーーーーーーー……………………………とんでもないですね…………乗組員が自分を疑って殺そうとしていると知るや否や速攻でほぼ全員殺したヤバいAIと同一の存在とは思えん。船外で活動してるクルーを何らかの方法でぶち殺した時の撮り方怖すぎて叫んだし。マジで殺意がものすごすぎ。呼吸音を突然無音にしてHALくんを急にドゥン!ドゥン!ドゥン!!みたいな感じでアップにするのやめてほしい。なんかこうやって振り返っていくとHALの人間味がすごい。クルーはどこか無機質だったから余計に生々しい感情みたいなものが伝わる。

 最後の赤ん坊のくだり、HALの死に方、三段の変化の「幼児」を思い出したけどなんかちょっと違うので結局腑に落ちなかった。そもそも三段の変化自体、「高次の存在にいくというよりは既存の道徳を打ち壊せるようになるまでの過程を述べたにすぎない」と解釈しているのでその点でも違うなと。でも「ツァラトゥストラはかく語りき」と名付けられた曲を流したり、宇宙船のを円環を強調したつくりにしてたりどこか目配せはしてるなと感じた。ただやっぱり永遠回帰とか三段の変化に結びつけるのは厳しい気がしてしまった…………あとツァラトゥストラに着想を得たとしたら夜明けもいいけど没落(太陽が沈む)ことにも焦点を当てて欲しかった…………のでニーチェを研究した上で挑んだけど今回も何もわかりませんでした。無念。
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