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2001年宇宙の旅の海のレビュー・感想・評価

2001年宇宙の旅(1968年製作の映画)
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道路の向こう側に、煙草に火を付けている男性が立っていました。わたしは目が悪く、かけていた眼鏡の度数も合っていなかったから、顔の前に両手を掲げている姿が、わたしには、祈りの姿勢のように見えた。ひどく美しかった。寒くなり始めたばかりの外の空気は何もかもを透かしてしまっていた。生命が死ぬときはかならず生きたままだということ。神さまがわたしたちをつくったとして、それなら生きたまま生命を殺すあなたは残酷だ。偶然などという失敗を潰して運命を結びつづけてきたその手から、技術を教わり進歩し人が木星まで行ったのだとして、それなら冬の病室に差し入る明るい光、あれは、何。あれが何なのか、ずっとわたしはわからないよ。とても説明のできないこと、ずっと答えなんてないこと、いつも驚いてしまうわたしの中のこと、当たり前のものとして、そこにあるばかりで、とまどう。わたしの眠っているこの地面の下では古代の怪物が永遠の眠りについている、肺を燃やしながら祈ったのはいったいどんなことばだったろうか、もしもわたしを残して時間が止まったら銀行強盗よりもまっさきにあなたを抱きしめに行くってそんなことばが自分の口から出たことがひどく悲しかったあの日の夕方六時、デイジー、デイジー、答えておくれ、君への愛でおかしくなりそうだ。こんな小さくて残酷なわたしみたいな生き物の中に、朽ちていくコンピュータも賢い顔した猿もうそつきの人類も生も死もそれ以外も記録されてる、こんなものが。ひとの手でつくられた映画。Siriもデイジー・ベルを歌う。さようなら幽霊よ。
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