熊井啓の脚本は麻薬をめぐる二つの組織の対立や彼らを探る潜入捜査の大変さを80分という短い時間の中で的確に描き、牛原監督のテンポのよい演出も相まって結構楽しく見ることが出来た。
でもこの作品の最大の弱点は主人公である赤木圭一郎がほとんど空気であることで、特に個性を発揮することが出来ないまま金子信雄や内田良平、待田京介の悪役演技にほとんど食われっぱなしの状態で終わってしまう。むしろこの映画で主役としての存在感を放つのは脇役の元刑事を演じる穂積隆信で、麻薬の売買に手を染めてしまったばかりに職や妻まで失い、身も心もボロボロのまま暗黒街で暮らすアウトローな人間像を好演。そして後半、爆弾事件に巻き込まれた際に刑事としての本能が目覚めはじめ爆破を阻止しようと尽力する。この展開は結構脚本の構成もしっかりとしているので楽しいけれど、もはや主役の赤木は脇役以下の存在に。
ラストは一応赤木を立てて終わらせているけど、あんまり活躍していないのでもやもやした状態で終わってしまう。